皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
実家の相続は、多くの方にとって人生で初めての経験です。
ご自身が生まれ育った思い出深い場所であるからこそ、相続手続きでは感情的な問題も絡み、トラブルに発展しやすい傾向があります。
「どう分けるか」「誰が管理するか」「税金はどうなるのか」など、悩みは尽きません。
実家相続で起こりやすいトラブルは、実はある程度パターンが決まっています。
事前に知識を持っていれば、多くの問題は回避できるのです。
しかし、知識がないまま手続きを進めてしまうと、兄弟間の関係が悪化したり、思わぬ経済的負担を強いられたりする可能性があります。
本日は、実家相続で起こりがちなトラブルとその対策について、網羅的に解説いたします。
この記事を最後までお読みいただければ、実家相続の全体像が理解でき、ご家族で話し合うべきポイントも明確になるはずです。
本記事の内容は、YouTube動画『動画 xn6aZHIE2Ig』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
実家相続で起こる7つの主要トラブル
実家相続には、以下の7つの主要なトラブル要因があります。
- 共有名義によるトラブル
- 売却時の揉め事
- 事前の名義変更リスク
- 相続税の負担
- 空き家問題
- 遺品・家財道具の処分
- 相続登記の放置
それぞれ詳しく解説します。
1. 共有名義によるトラブル
親が亡くなり、子供3人が相続する場合、法律上は子供たちが3分の1ずつ相続するのが原則です。これを法定相続といいます。しかし、この「共有」という状態には、4つの深刻な問題点があります。
全員の同意が必要
実家を売却するにしても、賃貸に出すにしても、共有者全員の同意が必要です。たった1人が反対するだけで、何も進まなくなってしまいます。想像してみてください。3人兄弟の1人が「思い出の家だから売りたくない」と言えば、他の2人がどれだけ売却を希望していても、実現できないのです。
ネズミ算式に増える共有者
相続した時点では、AさんBさんCさんの3人で良いかもしれません。しかし、将来的にはどうなるでしょうか。
相続した子供たちが50歳だとすると、次はその子供たち(孫)、さらにその子供たちへと相続が続きます。すると、共有者はどんどん増えていきます。従兄弟同士、さらには顔も見たことのない遠い親戚同士が共有者になる可能性もあるのです。
これだけ人数が増えると、意見をまとめることは事実上不可能になります。
固定資産税の負担問題
不動産を所有していると、固定資産税を毎年必ず支払わなければなりません。実家の場合、平均で年間15万円から20万円程度です。
この税金を誰が負担するのか、ここで意見が合わなくなります。「私は実家に住んでいないのに、なぜ払わないといけないの?」「長男が実家を使っているんだから、長男が全額払うべきだ」といった主張が出て、兄弟間の関係がこじれていくのです。
持ち分の売却による悪質業者の介入
共有状態のもう一つの危険性は、持ち分だけを買い取る業者の存在です。
かつては、持ち分だけを買っても全員の同意がなければ売却できないため、買い手はいませんでした。しかし最近、あえて持ち分だけを買い取る業者が出現しています。
例えば、BさんがAさん・Cさんに相談せず、自分の持ち分3分の1を業者に売却したとしましょう。Bさんは現金を手にして得をするかもしれませんが、残されたAさん・Cさんにとっては大問題です。
なぜなら、業者は「あなたの実家、私も3分の1持っていますよ。買い取りませんか?」と持ちかけてくるからです。思い出の詰まった実家が他人のものになるのは気持ち悪いですよね。500万円で買い取った持ち分を、1,000万円で買い戻させようとするのです。
実家は単なる不動産ではなく、思い出が詰まった場所です。そのため、相場より高い金額でも、やむなく買い取ってしまうケースが多いのです。
このような状態になると、兄弟間の関係はさらに悪化します。共有状態は極力避けるべきです。生前に遺言で指定しておくか、遺産分割協議で誰のものにするか決められれば問題ありませんが、それができずに共有にした場合、これらのトラブルが待っています。
2. 売却時の揉め事
地方の実家などは、管理できなかったり、維持費がかかったりするため、売却を選択するケースも多いでしょう。壊すという手もありますが、売れるのであれば売却したほうが良いはずです。
しかし、売却時にも揉め事が起こりやすいのです。主な争点は以下の3つです。
不動産業者の選定
不動産業者によって、査定額や販売力にはばらつきがあります。「どの業者に頼むか」で最初から意見が割れることがあります。
うまくいけば問題ありませんが、もしうまくいかなかった場合はどうでしょうか。「この不動産屋、兄ちゃんが連れてきたんでしょ」「高く売れるって言ったのに、全然高く売れないじゃないか」といった責任のなすりつけ合いが始まります。
業者選定は慎重に行い、できれば複数の業者に査定を依頼して、家族全員で納得した上で決めることが重要です。
売却金額の妥当性
不動産の価格には、決まった金額がありません。
一般によく質問されるのが固定資産税評価額です。これは市町村が税金を徴収するために設定している金額ですが、この金額で必ず売れるとは限りません。高くなるかもしれませんし、安くなるかもしれません。
もう一つ、路線価という国が定めた金額もあります。これも一応の目安にはなりますが、実際の売却価格とは異なる場合があります。
本当に正確な金額を知りたい場合は、不動産鑑定士に依頼するのが確実です。ただし、不動産鑑定士への依頼には相応の費用がかかりますので、最終手段として検討すると良いでしょう。
売却時の税金
実家を売却して利益が出た場合、譲渡所得税がかかります。この税金が高額になると、せっかく売却しても手元に残る金額が少なくなってしまいます。
ただし、相続した実家の売却には特例があり、条件を満たせば税金がかからない場合もあります。この特例をうまく活用できるかどうかで、手取り額が大きく変わってきます。
税金や特例については税理士が専門ですので、売却を検討する際は税理士にも相談しながら進めることをお勧めします。
3. 事前の名義変更リスク
「母が生きているうちに、どうせいずれ息子のものになるんだから、実家を息子名義にしておこう」
一見、良さそうに思えますよね。しかし、これには大きなリスクがあります。
人間はいつ亡くなるか分かりません。もし、母親がまだ生きているうちに息子が亡くなったらどうなるでしょうか。
法律の規定に従うと、息子の財産は息子の妻と息子の子供に相続されます。母親には相続権がありません。
よくあるのが、息子が独身だったり子供が小さかったりして、妻の名義にするケースです。すると、自分たちの実家が嫁の名義になってしまうのです。
血のつながった息子の名義ならまだしも、法律上は他人である嫁の名義になってしまうと、トラブルに発展しやすくなります。
実際にあった事例では、この妻が母親(義母)に「出て行ってください」と言い、裁判になったケースもあります。裁判では、所有者である妻の主張が通りやすいため、母親が不利な立場に立たされてしまいます。
息子名義にすることが必ずしも悪いわけではありませんが、こうしたリスクがあることも理解した上で判断する必要があります。
4. 相続税の負担
親が実家を持っていて亡くなった場合、家族が相続すると相続税がかかることがあります。
基礎控除額
相続税には基礎控除があり、この範囲内であれば税金はかかりません。計算式は以下の通りです。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数
例えば、法定相続人が3人の場合、3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円までは税金がかかりません。
申告・納付の期限
相続税は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告・納付しなければなりません。
最大の問題:現金納付が原則
ここが最も問題になるポイントです。相続税は現金で納めるのが原則なのです。
例えば、相続税が2,000万円かかるとなった場合、2,000万円の現金を持っている方はそう多くありません。
もちろん、例外的に不動産で納める方法などもありますが、原則は現金です。このため、相続税の支払いで困る方が非常に多いのです。
インターネットで検索すれば、相続税のシミュレーションサイトがいくつもあります。まずはそれで試算してみるのも良いでしょう。また、相続税の専門家は税理士ですので、早めに相談することをお勧めします。
5. 空き家問題
空き家を放置すると、様々なリスクが生じます。
管理責任
放置された空き家は、草がボーボーに生え、建物が老朽化していきます。もし屋根が壊れて通行人が怪我をした場合、誰が責任を負うのでしょうか。
登記簿を見ると、お家の所有者は亡くなったお父様の名義です。しかし、お父様は既に亡くなっているため、法律上は自動的に家族(相続人)に承継されています。
つまり、「親父の名義だから知らない」という言い訳は通用しません。息子や妻などの相続人が責任を負うことになるのです。
固定資産税の増額
通常、実家の固定資産税が年間20万円だとしましょう。しかし、空き家や特定空き家として認定されてしまうと、固定資産税が6倍になる可能性があります。
20万円が6倍になると、なんと年間120万円です。年間120万円を市町村に納め続けるのは、大変な負担ですよね。
「それなら解体しよう」と思っても、解体には500万円程度の費用がかかることもあり、これもまた大きな問題となります。
本来、空き家にせず早めに売却していれば、売却益を得られたはずです。それが逆に、解体費用という出費が必要になってしまうのです。
近隣トラブル
空き家から悪臭がしたり、動物が住み着いたり、不審者のたまり場になったりすると、近隣住民から苦情が来ます。
「誰が対応するの?」で、また兄弟間で揉めることになります。「兄ちゃんが対応してよ」「なんで俺が?」といった具合です。
例外的なケース
沖縄で、空き家に入った高校生が1億円を見つけたという事例もありましたが、こうしたラッキーな話はほとんどありません。基本的には、空き家は負の遺産になりやすいとお考えください。
6. 遺品・家財道具の処分
実家を相続した際、遺品や家財道具をどうするかも問題になります。
お父様が使っていたメガネ、生前愛用していた品、タンス、テレビなど、様々なものがあるでしょう。使えるものは引き取る人もいるかもしれませんが、使えないものや遺品はどう処分すればよいのでしょうか。
世の中的には価値がなくても、家族にとっては大切な思い出の品です。簡単に捨てることはできません。
最近は、業者に依頼して廃棄してもらうケースが増えています。やはり、自分たちだけでは捨てられないという気持ちがあるのでしょう。
処分を担う人の問題
もう一つの問題は、「誰がやるのか」です。
家族がいれば家族がやるかもしれませんが、遠方に住んでいたり、高齢だったりして、誰もできない場合もあります。
そういった場合には、死後事務委任という制度があります。自分が亡くなった時の手続きや管理を、第三者に委任するものです。
管理し続けるのも一つの選択肢ですが、処分するにしても管理するにしても、費用や負担が発生します。家族で事前に話し合い、費用負担についても決めておくことが重要です。
7. 相続登記の放置
実家は、必ず誰かの名義になっています。通常はお父様の名義でしょう。
お父様が亡くなると、その名義は効力を失い、息子に移さなければなりません。これが相続登記です。
#### 相続登記の義務化
相続登記は、3年以内に行わなければならないと法律で定められています。3年以内に行わなかった場合、10万円の過料が科される可能性があります。
ただし、相続人間で揉めていたり、連絡が取れなかったりといった正当な理由がある場合は、過料が免除されることもあります。しかし、原則として過料が科されますので、ご注意ください。
#### 差押えのリスク
相続登記を放置すると、差押えのリスクが生じます。これは非常に深刻な問題です。
- お父様名義の実家
- お父様が亡くなる
- 長男Aと次男Bが相続(法律上は各1/2の共有)
- 家族内ではAが相続することが決まっている
- しかし相続登記を入れていない
- Bに銀行からの借金がある
- 銀行がBの持分1/2を差し押さえる
- 実家が銀行に差し押さえられる
家族の中では「実家は長男Aのもの」と決まっていたとしても、相続登記をしていないと、世の中的にはAとBの共同所有として扱われます。
次男Bに銀行からの借金があった場合、銀行はBの持分1/2を差し押さえることができます。すると、実家が銀行に差し押さえられることになるのです。
Aが「実家は自分のものだ」と主張しても、銀行に対しては通用しません。Aが弟Bの借金を払うか、持分だけ競売にかけられて他人のものになる可能性があります。
本来相続すべき長男Aが、弟の借金を払わざるを得ないという最悪の結果になってしまうのです。
相続登記の義務化で減るが、3年以内は要注意
相続登記の義務化が始まったことで、こうしたトラブルは減っていくと思われます。しかし、義務化後も3年以内の猶予期間があります。
この3年の間に、弟が借金を抱えて差押えに遭うことは十分にありえます。しかも、弟が自分から「借金がある」と言うとは限りません。気づいた時には、すでに差押えられているということもあるのです。
ですから、一刻も早く相続登記を済ませることが重要です。
8. 相続放棄の注意点
相続放棄とは、「相続をしない」という意思表示のことです。
現在の法律では、親が亡くなると子供たちが自動的に相続します。相続したくない場合は、家庭裁判所に3ヶ月以内に相続放棄の申述をしなければなりません。
#### 相続放棄をする主な理由
相続放棄をする最大の理由は、借金です。親の借金を引き継ぎたくないという方が多いのです。
何もしなければ、借金も自動的に相続されます。それが嫌だからこそ、相続放棄をするわけです。
#### 次順位への承継に注意
相続放棄には、大きな注意点があります。それは、放棄すると次の相続人に承継されるということです。
- 第1順位:子供
- 第2順位:親(祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹
例を挙げて解説しましょう。
Aさん(お父様)が借金を持って亡くなりました。第1順位である子供たちが相続します。しかし、子供たちは「親の借金を相続するのは嫌だ」と相続放棄しました。
相続放棄をすると、次の順位に移ります。第2順位は祖父母ですが、通常は既に亡くなっています。そうすると、第3順位であるお父様の兄弟姉妹に相続されるのです。
お父様の兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、その子供(甥・姪)に相続されます。子供たちからすると、従兄弟が借金を相続することになるのです。
#### 通知は来ない
ここで重要なのは、次順位の相続人に通知は来ないということです。
叔父や従兄弟は、自分が相続人になったことを知らないまま、ある日突然、銀行から請求書が届くのです。その時にはすでに3ヶ月を過ぎており、相続放棄ができないことも多いのです。
#### 全員で放棄する
もし誰も相続したくない場合は、全員で放棄する必要があります。次順位の相続人にも連絡し、一緒に相続放棄の手続きを取らなければなりません。
相続放棄は簡単にできると思われがちですが、実は非常に複雑です。必ず専門家(弁護士または司法書士)に相談してください。
実家相続で考えるべきその他の問題
認知症対策
高齢になると、認知症になる可能性が高まります。認知症になると、法律上の手続きが一切できなくなります。
例えば、実家を売ろうと思っても、契約する能力がないと判断され、売却できません。遺産分割協議にも参加できません。つまり、何もできなくなってしまうのです。
#### 成年後見人制度
認知症になった人を保護するために、成年後見人という制度があります。代わりに手続きをしてくれる人を家庭裁判所が選任するものです。
しかし、成年後見人制度にはいくつかの問題点があります。
- 家庭裁判所が選ぶため、他人(弁護士や司法書士など)が選ばれることがある
- 身内が後見人になっても、裁判所の監督下に置かれる
- 支出の説明義務がある(タクシー代、薬代など、全て説明が必要)
- 手続きが硬直的で非常に面倒
私自身も成年後見人になった経験がありますが、家族の方が事務所に怒鳴り込んできたことがあります。「うちの親の財産、お前が管理してるんだろう」と。
裁判所から選ばれて管理しているだけなのですが、「通帳を見せろ」と言われても、ルール上見せることはできません。見たい場合は裁判所に申し出て確認してもらうしかないのです。
#### 任意後見人
こうした問題を避けるためには、任意後見人を事前に指定しておくことが重要です。
「私が判断能力を失ったら、長男の○○が後見人として私の代わりに活動してください」と、元気なうちに契約しておくのです。
#### 家族信託
もう一つの方法として、家族信託があります。
判断能力がなくなった時に備えて、信頼できる家族と契約しておくのです。「自分の財産については、長男の○○が管理する」というように。
こうしておけば、自分が判断能力を失っても、長男が代わりに財産を管理できます。
- 任意後見人:判断能力を失ってから効力が発生する
- 家族信託:元気なうちから効力が発生する(例:足が悪くて動けないので息子に管理してもらう)
認知症対策については、弁護士や司法書士が詳しいので、ぜひご相談ください。
お墓・仏壇の管理
実家相続には、お墓や仏壇の管理という問題もあります。
お墓を管理するには、定期的に行って掃除をしなければなりません。しかし、遠方に住んでいたり、高齢だったりすると、なかなか難しいものです。
「妻に管理を頼んだら、なんで私がやらないといけないのと喧嘩になった」という話もよく聞きます。
お墓や仏壇は、財産とは少し違った「心の問題」があります。法律的なトラブルとは異なる悩みではありますが、家族でしっかり話し合っておくべきテーマです。
まとめ
本日は、実家相続で起こりやすいトラブルとその対策について解説してまいりました。以下、重要なポイントをまとめます。
- 共有名義は避ける:全員の同意が必要になり、固定資産税の負担問題や悪質業者の介入リスクがある
- 売却時は専門家に相談:不動産業者の選定、売却金額の妥当性、税金対策について、不動産鑑定士や税理士に相談する
- 事前の名義変更はリスクあり:息子が先に亡くなると、嫁の名義になる可能性がある
- 相続税の試算を早めに:基礎控除を超える場合、現金納付が必要。税理士に相談する
- 空き家は早めに対処:管理責任や固定資産税の増額、近隣トラブルのリスクがある
- 遺品・家財道具の処分方法を決めておく:誰がやるのか、費用はどうするのかを事前に話し合う
- 相続登記は3年以内に必ず行う:放置すると差押えのリスクがある
- 相続放棄は慎重に:次順位の相続人にも影響が及ぶ。必ず専門家に相談する
- 認知症対策を忘れずに:任意後見人や家族信託を検討する
実家は、ご自身が生まれ育った場所であり、家族で楽しく過ごした思い出のある場所です。この大切な実家の相続について、できるだけ早いうちに取り組み、家族で十分に話し合うことが重要です。
もし、ご家族だけでは話しにくい、専門的な知識が必要だと感じられたら、専門家の力を借りることも一つの方法です。ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にレスター司法書士法人にご相談ください。
本記事の内容は、YouTube動画『成年後見人と家族信託の違い』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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