相続不動産の名義変更を急ぐと損?司法書士が解説するリスクとタイミング

# 「名義変更は急ぐな」相続した不動産、すぐに名義変更して大丈夫?知らないと損するリスクを解説

皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高健一です。

「親が亡くなったら、まず名義変更を済ませておこう」——そう考えて行動された方が、後から多額の税金を請求されてしまう。そんな事案が、相続の現場では後を絶ちません。名義変更のタイミングを間違えただけで、500万円もの税金を余分に支払うはめになったケースも、実際に経験しています。

「家族の財産なんだから、早めに自分の名義にしておいた方が安心」と思いますよね。その気持ちはよく分かります。ただ、相続の手続きには適切なタイミングと順序があります。それを知らないまま動いてしまうと、手続きのやり直しや想定外の税負担につながるのです。

本日は、相続手続きの中でも特に「知らないと損する」ポイントに絞ってお伝えします。具体的には、相続における期限のある手続き法律が予定している正しい手続きの流れ多くの方が後悔するタイミングのミスの3つです。

「自分たちは大丈夫」と思っていた方ほど、思わぬところで躓いてしまうことがあります。ぜひ最後までお読みいただき、後悔のない相続のための知識として活かしてください。

目次

まず押さえておきたい2つの手続き:相続放棄と遺産分割協議

具体的な手続きの話に入る前に、多くの方が誤解されている2つの重要な概念を整理しておく必要があります。それが相続放棄遺産分割協議です。この2つを正しく理解しているかどうかで、その後の手続きが大きく変わります。

以下の2つについて解説します。

  1. 相続放棄とは何か
  2. 遺産分割協議とは何か

それぞれ解説します。

1. 相続放棄とは何か

「相続放棄」と聞くと、「財産をもらわないこと」というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。大きな方向性としては合っているのですが、法律上の意味はもう少し厳密です。

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も、一切合切を受け取らないという手続きです。「お金や不動産はいらないけど、借金は放棄したい」というように、都合よく分けることはできません。

そしてここが非常に重要なポイントです。相続放棄は、家庭裁判所で正式に手続きを行わなければなりません。

「自分は財産いらないから放棄する」と家族で話し合って決めることは、法律上の相続放棄にはなりません。これは一般の方が非常に多く勘違いされているところです。家族の話し合いで「自分は受け取らない」と決めることは、後述する「遺産分割協議」の中の話であって、相続放棄とは別の手続きになります。

さらに、相続放棄には3ヶ月という期限があります。「相続を知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所で手続きを取らないと、自動的に相続を承認したとみなされます。プラスの財産だけでなく、借金もすべて引き継いだことになってしまうのです。

3ヶ月というのは、借金があるかどうかを調べる期間も含まれています。親が事業をしていた場合や、誰かの連帯保証人になっていた場合など、調べるべき内容は多岐にわたります。なのに延長はできません。「もう少し待ってください」とは言えない、非常に厳しい期限です。

2. 遺産分割協議とは何か

遺産分割協議とは、誰がどの財産を受け取るかを、相続人全員で話し合って決める手続きです。

ここで必ず覚えておいていただきたいのが、「相続人全員の合意が必要」という点です。1人でも欠けてはいけません。

たとえば、お父さんが亡くなった場合、認知した子供や前妻の子供も法律上の相続人となる場合があります。そういった方々も含めて全員が合意し、全員が署名・実印を押した遺産分割協議書を作成しなければなりません。

行方不明の相続人がいる場合も、除くことはできません。その場合は家庭裁判所の手続きを通じてその方の代理人を選任し、その方の利益を守りながら協議を進めることになります。

なお、遺産分割協議には相続放棄と違って法律上の期限はありません。ただし、後でお話しするように、長引けば長引くほどリスクが増していきます。

相続手続きにはこんな期限がある

相続の手続きは段階的に進んでいきます。仮にお父さんが1月1日に亡くなったとして、時系列で確認してみましょう。

以下の4つの期限が主なポイントです。

  1. 相続放棄の期限(3ヶ月以内)
  2. 準確定申告の期限(4ヶ月以内)
  3. 相続税申告の期限(10ヶ月以内)
  4. 相続登記の期限(3年以内)

それぞれ確認していきましょう。

1. 相続放棄の期限(3ヶ月以内)

前述の通り、相続を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。1月1日に亡くなったとすると、4月1日が期限の目安です。

「プラスの財産しかないから大丈夫」と確認できれば問題ありませんが、借金や連帯保証がないか調べるのに時間がかかる場合は特に注意が必要です。よく分からない場合は、安全策として相続放棄を選ぶケースもあります。

2. 準確定申告の期限(4ヶ月以内)

準確定申告とは、亡くなった方が生前に確定申告をしていた場合(事業をしていた方や不動産収入がある方など)、その代わりに相続人が行う確定申告のことです。

死亡から4ヶ月以内に申告が必要です。1月1日に亡くなった場合、5月1日が目安の期限となります。

3. 相続税申告の期限(10ヶ月以内)

一定額以上の財産を相続した場合は相続税の申告と納付が必要です。これは死亡から10ヶ月以内。1月1日に亡くなった場合、11月1日が目安です。

注意していただきたいのは、税務署から「払ってください」と連絡が来るわけではないという点です。自分から申告に行かなければ、自動的にペナルティが課されます。相続税は日本国民全員が対象というわけではありませんが、対象になる可能性があると思われる場合は、早めに税理士に相談することをお勧めします。

4. 相続登記(名義変更)の期限(3年以内)

不動産を相続した方は、不動産の名義変更(相続登記)が義務化されています。期限は相続を知った日から3年以内で、期限内に手続きをしない場合は10万円以下の過料(罰金)が課される可能性があります。

3年というのは他の期限と比べると長めに感じるかもしれませんが、後述するように、名義変更を急ぎすぎることにも大きなリスクがあります。「3年あるから余裕」と油断せず、かつ「急いで名義変更してしまえばいい」とも考えないことが大切です。

相続の手続きの流れ

相続手続きは大きく4段階で進みます。

相続手続きの4ステップ
  • STEP1:相続人の確定 ── 戸籍を収集して法定相続人を特定する
  • STEP2:財産調査 ── 現金・預金・不動産・株式などプラスとマイナスの財産を把握する
  • STEP3:遺産分割協議 ── 誰がどの財産を引き継ぐかを全員で決め、協議書を作成する
  • STEP4:各種手続き ── 銀行の凍結解除・不動産の名義変更・車の名義変更などを実行する

STEP1の相続人の確定は、想像以上に時間がかかることがあります。亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍を取り寄せる必要があり、再婚歴がある場合や本籍地が転々としている場合は特に複雑です。「知らなかった相続人(認知した子など)」が戸籍調査の過程で判明することもあります。

STEP2の財産調査では、現金・預金・不動産・株式などあらゆる財産を把握します。銀行の預金口座は、金融機関が死亡の事実を知った段階で凍結されます。凍結を解除するためには遺産分割協議書が必要です。逆に言うと、遺産分割協議が終わるまでは、銀行口座からお金を引き出すことができません。

STEP3の遺産分割協議は、必ずしも全員が一堂に会して行う必要はありません。書面でのやり取りで合意が取れれば、協議は成立します。県外や海外にお住まいの方が相続人に含まれていても対応できます。

ただし、協議が長引くリスクは現実にあります。実務で経験した最長のケースでは、10年かかった案件もあります。協議が長引く間に別の相続人が亡くなり、さらに次の相続が発生して相続人が増えていく——そうした「数珠つなぎ」のような状態になると、収拾がつかなくなってしまいます。相続人が100人規模になった「モンスター相続」と呼ばれるケースでは、相続人を調べるだけで5年かかることもあります。

「名義変更は急ぐな」——後悔しやすい2つのミス

では、冒頭でお伝えした「タイミングを間違えると500万円の税金を払う」ことになるリスクとは何か。具体的な後悔ポイントを2つ紹介します。

以下の2つが、実務で特に多い後悔のパターンです。

  1. 亡くなった親の預金を引き出してしまう
  2. 不動産を共有名義にしてしまう

それぞれ解説します。

1. 亡くなった親の預金を引き出してしまう

「家族なんだから、少し引き出しても問題ないだろう」と思って親の口座から預金を引き出す——これが大きなリスクになります。

親の口座から預金を引き出したり、解約したりすると、「相続を承認した」と見なされる可能性があります。そうなると、後から借金が発覚しても相続放棄ができなくなってしまいます。プラスの財産もマイナスの財産も、すべてを引き継がなければならない状態になるのです。

「みんなやってるよ」と思われるかもしれません。実際、気づかれずに済んでいるケースも多いです。しかし、トラブルが表面化したときには「承認したとみなされて損した」ということになりかねません。

では、葬儀費用や病院代など、すぐに必要なお金はどうすればよいのでしょうか。

亡くなった直後に必要な資金の対処法
  • 生命保険を活用する:死亡証明書の提出から約1週間で保険金が振り込まれる。葬儀費用などに充てることができる
  • 銀行の仮払い制度を活用する:遺産分割協議前でも、一定額を引き出せる制度がある。正規の手続きとして活用するのが安全

また、生命保険は相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が設けられています。生前のうちに相続税対策として加入しておくことも、有効な方法の一つです。

2. 不動産を共有名義にしてしまう

「揉めないように、とりあえず共有名義にしておけばいい」——この発想が、後から大きな税負担につながることがあります。

ケース①:小規模宅地等の特例が使えなくなる

小規模宅地等の特例とは、被相続人(亡くなった方)と同居していた配偶者や家族が自宅を相続した場合、相続税の評価額を最大80%減額できる制度です。

たとえば、自宅の評価額が1,000万円だったとします。同居しているAさん(配偶者)と、同居していないBさん(息子)が500万円ずつ共有名義で相続した場合——Aさんの分500万円は80%減額されて100万円に対する課税となりますが、Bさんの分500万円には特例が適用されず、500万円に対して税率がかかります。

一方、Aさん単独名義にしていれば、1,000万円全体が80%減額されて200万円に対する課税で済みました。共有にしたことで、大きな差が生まれてしまうのです。

ケース②:売却時の3,000万円特別控除が半分しか使えなくなる

居住用の不動産を売却して利益が出た場合、居住用財産の3,000万円特別控除という制度が使えます。住んでいる方が売却した場合、3,000万円までの利益には税金がかからないという非常に有利な制度です。

ただし、この控除は実際に住んでいる人にしか適用されません。

たとえば、お父さんが昭和50年頃に7,000万円で購入した自宅が現在1億円になっていたとします。売却すると3,000万円の利益(譲渡所得)が発生します。これを、同居しているAさん(母)と同居していないBさん(息子)が1/2ずつ共有名義で相続して売却した場合——Aさんの持ち分(1/2)には3,000万円控除が適用されますが、Bさんの持ち分(1/2)には適用されません。結果として控除は半分の1,500万円しか使えず、残りの部分に譲渡所得税がかかることになります。

Aさん単独名義にしていれば、3,000万円の控除が全額使えて税金を払わずに済んだところが、共有にしたことで大きな税負担が生まれてしまいます。

POINT
  • 共有名義は「揉めない解決策」に見えるが、相続税・譲渡所得税で大きく損をする可能性がある
  • 小規模宅地等の特例・居住用財産の3,000万円特別控除は「住んでいる人」にしか適用されない
  • 名義をどうするかは、必ず税理士に相談してから決めること

まとめ

相続の手続きは「早く済ませたい」という気持ちになりがちです。しかし、タイミングを間違えると取り返しのつかない結果になることがあります。本記事の要点を整理します。

  • 相続放棄は家庭裁判所での正式手続きが必要。「家族の話し合い」では相続放棄にならない。期限は相続を知った日から3ヶ月以内
  • 手続きには厳しい期限がある。準確定申告(4ヶ月)・相続税申告(10ヶ月)・相続登記(3年)を把握しておく
  • 亡くなった親の口座から預金を引き出すことは危険。相続を承認したとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性がある
  • 不動産を安易に共有名義にすると、相続税や譲渡所得税で大きく損をするリスクがある。小規模宅地等の特例や3,000万円特別控除が使えなくなる場合がある
  • 専門家への相談は、動き出す前に行うことが大切。自分たちで動いた後では対応が難しくなるケースが多い

ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にレスター司法書士法人にご相談ください。

YouTubeやってます!

本記事の内容は、YouTube動画『「名義変更は急ぐな」相続した不動産、すぐに名義変更して大丈夫?知らないと損するリスクを解説』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Contact

まずは、話してみてください。

初回相談は無料です。どんな小さなことでもお気軽にお声がけください。

Quick Call

098-987-1628

Office Hours

平日 8:30 – 17:30

監修者 司法書士 日高憲一

この記事の監修者

日高 憲一(レスター司法書士法人 代表社員司法書士)

沖縄県名護市出身。那覇市壺川で開業以来、相続登記・家族信託・渉外登記・事業承継など沖縄の登記・法務案件を幅広く手がける。実務経験20年・相続案件実績2,000件。

代表挨拶・事務所案内を見る

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次