「揉めてからでは遅い」兄弟姉妹で相続の家をめぐって揉める前に知るべき3つの方法

兄弟で相続の家をめぐり揉める前に

皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。

「実家を兄弟で平等に分けたい」——相続のご相談でよくお聞きする言葉です。

一見シンプルに思える問題ですが、実はこれこそが最も揉める原因の一つなのです。

長男は「実家は自分が継ぐもの」と考え、次男は「兄弟平等に権利があるはず」と考える。

このように、家族だからこそ、それぞれの思いや立場が異なり、平等に分けることが非常に難しくなってしまいます。

相続が発生してから話し合おうとしても、すでに感情が絡み合い、手続きが進まなくなることが少なくありません。

私はこれまで約20年間、北海道から沖縄まで2000件以上の相続案件に携わってきましたが、実家の相続トラブルは本当に多いのです。

本日は、実家を平等に分けることがなぜ難しいのか、法律上の分け方である4つの方式、話し合いがまとまらない場合の進み方、そしてトラブルを避けるために知っておくべき3つの方法について解説いたします。

YouTubeやってます!

本記事の内容は、YouTube動画『「揉めてからでは遅い」兄弟姉妹で相続の家をめぐって揉める前に知るべき3つの方法』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

目次

なぜ実家を平等に分けることが難しいのか

実際のケースで考えてみましょう。

お父様が亡くなり、実家に長男(Aさん)が住んでいて、次男(Bさん)は独立して別の場所に住んでいるとします。

実家の価値は3000万円です。この場合、どのように分けるのが「平等」でしょうか。

共有名義という選択肢の落とし穴

「長男と次男の共有名義にすればいい」と考える方も多いでしょう。

確かに、法律上は平等です。しかし、これには大きな問題が潜んでいます。

将来、権利関係が複雑化するのです。

Aさんが亡くなれば、その配偶者や子供たち(X、Y、Z)が権利を引き継ぎます。Bさんも同様です。すると、最終的には6人、場合によってはそれ以上の人数が共有することになります。

このように権利者が増えると、何をするにも全員の同意が必要になります。

実家を売却したい人、守りたい人、意見が分かれれば、何も決められなくなってしまうのです。

売却をめぐる意見の対立

10年後、実家の価値が1億円に上がったとします。

老朽化も進み、「売却して現金で分けよう」という意見が出てくるかもしれません。

しかし、「先祖代々の土地を守りたい」「思い出の詰まった家を手放したくない」という意見も当然あるでしょう。

現在の日本の法律では、不動産を売却するには共有者全員の同意が必要です。

6人全員が同意しなければ、たとえ1億円で売れる物件でも売却できません。

意外かもしれませんが、高額で売れるからといって全員が同意するわけではないのです。実家には金額では測れない価値があります。

家族の思い出、先祖への感謝の気持ち、そうした感情が売却への反対意見を生むのです。

一方で、固定資産税を負担している人、教育資金が必要な人にとっては、「今売却すべき」という意見も正当なものです。

このように、家族だからこそ、それぞれの事情や価値観の違いが対立を生むのです。

実家を分ける4つの方法とその課題——現物分割・代償分割・換価分割・共有分割

では、実家を分ける方法として何が考えられるでしょうか。

法律上、遺産の分け方は大きく「現物分割・代償分割・換価分割・共有分割」の4方式に整理されます。実務で実際に選ばれるのは、このうち「長男名義にする(現物分割)」「長男が次男に金銭を支払う(代償分割)」「売却して分ける(換価分割)」の3つがほとんどです。まずは全体像を一覧で確認し、そのうえで一つずつ課題を見ていきましょう。

方式内容向いているケース注意点
現物分割財産をそのままの形で割り振る(実家は長男、預貯金は次男など)実家以外にも預貯金など分けられる財産がある場合財産の価値に差があると不公平感が残りやすい
代償分割実家を取得した人が他の相続人に代償金を支払う実家に住み続けたい相続人に資力がある場合代償金を用意できないと成立しない
換価分割実家を売却し、現金を分ける誰も実家に住む予定がない場合実家は手放すことになる。売却の費用・税金で手取りは減る
共有分割実家を相続人全員の共有名義にする原則としておすすめできません処分に全員の同意が必要。世代交代で権利者が増え続ける

現物分割①——長男名義にする(「実家+預貯金」で調整できるなら第一候補)

最もシンプルな方法は、実家を長男名義にすることです。

遺産分割協議書に「実家の不動産はAが取得する」と記載すれば完了します。

しかし、これだけでは平等とは言えません。長男が財産を取得するだけで、次男には何も残りません。次男が納得しない可能性が高いでしょう。

そこで実務で使うのが、「実家は長男、預貯金は次男」というように財産を形を変えずに割り振る現物分割です。実家のほかに預貯金や有価証券がある程度あるご家庭なら、金額のバランスを取りながら分けられるため、最もシンプルで揉めにくい分け方になります。

問題は、遺産のほとんどが実家だけというケースです。この場合、現物分割ではどうしても不公平が残ります。広い土地であれば分筆して土地そのものを分ける方法もありますが、建物が建っている実家では現実的でないことが多く、次にご紹介する代償分割や換価分割との組み合わせを検討することになります。

現物分割②——土地を分筆して分ける方法と、その限界

敷地に余裕がある場合は、土地を分筆して兄弟それぞれの名義にする選択肢もあります。分筆とは登記上1筆の土地を複数に分ける手続きで、土地家屋調査士の測量と分筆登記を経て別々の土地として所有します。現金を用意する必要も、売却する必要もありません。

ただし、建物のある実家で使える場面は多くありません。建物は分筆できないため母屋のある側とない側で価値が大きく変わりますし、分けた結果どちらかが道路に接しない土地・再建築できない土地になれば価値は大きく下がります。測量と境界立会いの費用と時間もかかります。

検討する場合は「面積で半分」ではなく「分けた後のそれぞれの土地の価値で公平か」という視点で進めてください。

代償分割——実家を継ぐ人が他の兄弟に金銭を支払う

実家の価値が3000万円なら、長男が次男に1500万円を支払う方法があります。これを代償分割と言います。

一見、平等に見えるこの方法ですが、実際には難しい問題があります。

  • 長男の立場:「実家を継いでいるのに、なぜ1500万円も払わなければならないのか」
  • 現金の準備:1500万円を一括で用意できる人は多くありません

法律上は平等でも、感情的には納得しがたいのです。しかも、多くの長男が実家に住み続けるだけなのに、現金1500万円が消えることに違和感を覚えます。

代償分割の最大のハードルは、いま述べたとおり代償金の準備です。一括での支払いが難しい場合は、分割払いの条件まで含めて遺産分割協議書に明確に記載しておかないと、「払う・払わない」の二次トラブルに発展します。

実家をいくらと見るか——不動産の評価方法で代償金は大きく変わる

代償金を決めるうえで意外と見落とされているのが、「実家をいくらと見るか」という前提です。先ほどの例では3000万円としましたが、これが1500万円なのか4000万円なのかで代償金は倍以上変わります。しかも不動産の価格には複数の「正解」があります。

  • 固定資産税評価額:毎年春の納税通知書で確認できるが、時価より低め(公示価格の7割程度が目安)
  • 相続税路線価:国税庁が毎年公表。公示価格の8割程度が目安で、こちらも時価より低い
  • 不動産会社の査定額:最も実勢に近いが、査定する会社によって金額に幅が出る

実家を取得したい長男は低い評価額を、代償金を受け取る次男は高い評価額を主張したくなります。どちらも自分に有利な資料を出せてしまうため、評価額そのものが争いの種になるのです。

大事なのは「どれが正解か」ではありません

実務でうまくいくご家族は、どの評価方法が正しいかを争うのではなく、金額の議論を始める前に「兄弟で同じ物差しを使う」ことに合意しています。「不動産会社2社の査定の平均値でいこう」と先に決めてしまえば、あとは数字に沿って淡々と進められます。なお、相続税の課税価格としての評価は税理士、売却を前提とした査定は不動産会社の領域です。

換価分割——実家を売却して現金で分ける

実家を第三者に売却し、得られた現金を分ける方法を換価分割と言います。3000万円で売れれば、1500万円ずつ分けることができます。

これは最も平等な方法ですが、実家は二度と戻ってきません。先祖代々の土地、家族の思い出が詰まった場所を手放すことに、抵抗を感じる人も多いでしょう。

また、換価分割は金銭的には最も公平ですが、売却の前提として相続登記が必要になるほか、仲介手数料や、売却益が出た場合の譲渡所得税など、手取りは売却額の額面どおりにはならない点に注意が必要です。売却を急ぐと足元を見られることもあるため、時間に余裕を持って進めましょう。

共有分割を安易に選ぶと「詰む」理由

4方式のうち、当事務所が原則としておすすめしないのが共有分割です。「とりあえず共有にしておこう」は一見公平に見えますが、実際には結論の先送りにすぎません。

  • 売却や大規模な修繕、賃貸に出すことにも共有者全員の同意が必要になる
  • 先ほど述べたとおり、相続を重ねるごとに権利者がねずみ算式に増えていく
  • 共有持分だけを第三者(持分買取業者など)に売却することは各自の判断ででき、見知らぬ業者と共有関係になるおそれがある
  • 共有を解消しようとしても話がまとまらず、共有物分割請求の裁判までもつれることがある

兄弟の関係が良好な今は問題がなくても、共有名義の不動産は次の世代に問題を先送りする仕組みそのものです。どうしても結論が出ない場合の一時的な措置と割り切り、できるだけ早く解消の道筋をつけることをおすすめします。

そもそも受け取らないという選択——相続放棄

ここまで「どう分けるか」を見てきましたが、選択肢はもう一つあります。相続放棄——最初から相続人でなかったことにする手続きです。

実家に戻る予定も管理する余裕もない、あるいは亡くなった方に借金があるかもしれない。そうした場合、一切の財産を受け取らない代わりに負債も引き継がない、という判断ができます。ただし、次の点は必ず押さえてください。

  • 期限は原則3か月:相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述。沖縄本島なら那覇家庭裁判所が窓口です
  • 一度受理されると撤回できない。実家だけ放棄して預貯金はもらう、という「いいとこ取り」もできません
  • 次順位に相続権が移る:子が全員放棄すると親や兄弟姉妹へ移り、事情を知らない親族が突然相続人になります

なお、協議で「私は何もいりません」と署名する「事実上の放棄」では、借金の責任は免れません。

完全な平等は難しい—それでもできること

ここまで見てきたように、実家を「完全に平等」に分けることは、法律的には可能でも、家族の気持ちの中で平等にすることは非常に難しいのです。

法律上の平等と、家族の感情における平等は、まったく別のものです。

この天秤をうまく測って「これなら平等ですね」と全員が納得することは、ほぼ不可能と言ってもよいでしょう。

では、どうすればよいのでしょうか。完全な解決は難しくても、最低限のトラブルを避ける方法はあります。以下の3つをご紹介します。

トラブルを避けるための3つの方法

1. 相続発生直後に家族でルールを決める

お父様が亡くなった直後、遺産分割協議で生々しい金額の話をする前に、家族で実家に関するルールを決めておくことが大切です。

たとえば、実家を長男名義にする代わりに、長男には以下のような役割を担ってもらうことを取り決めます。

  • 法事や家族行事の主催
  • 固定資産税などの費用負担
  • 実家の維持管理(清掃、修繕など)

このルールを書面にまとめることが重要です。遺産分割協議書の中に記載してもかまいません。

次男としては、本来は1500万円が欲しいかもしれませんが、「実家を守ってほしい」という願いとして、1歩2歩譲る形です。お互いに妥協し、納得できる形を作ります。

第三者を入れることの重要性

このルール決めには、司法書士などの第三者を入れることをお勧めします。

家族だけで話し合うと、曖昧なまま終わったり、後から「そんなこと言っていない」と揉めたりします。誰が見ても一義的に分かる文章で残しておけば、10年後も家族のルールが明確です。

特に次男の立場では、兄に対して「こういうことをしてほしい」とは言いにくいものです。

そこを専門家が介在して、揉める前に「こういうルールを作りましょう」と提案することで、家族が納得しやすくなります。

2. 次男名義にして長男が使用する

逆の発想もあります。実家の名義を次男(Bさん)にして、長男(Aさん)がそこに住み続ける方法です。

長男と次男で「無償で使ってもいいよ」という使用貸借契約を結ぶ、あるいは安い賃料で貸す形にするのです。

この方法の利点は、共有名義を避けられることです。共有にすると、将来的に相続人が増えて複雑になる問題を回避できます。

次男の立場では、理想は売却して現金を得たいかもしれません。しかし、それが難しいなら、せめて名義を自分のものにして、長男には亡くなるまで住んでもらう——こうしたルールが明確になっていれば、少し気持ちが安心するのではないでしょうか。

3. お父様が元気なうちに決めておく(最重要)

最も大事なのは、お父様が元気なうちに実家をどうするか決めておくことです。

具体的には、以下の方法があります。

  • 遺言書を作成し、実家を誰に相続させるか明記する
  • さらに元気なうちに、生前贈与で長男や次男の名義にしておく

建物は古くなりますが、土地は通常、年々価値が上がっていきます。10年後には3000万円が1億円になっているかもしれません。価値が上がるほど、固定資産税の負担も増え、「売りたい」「売りたくない」という対立も激しくなります。

そうしたトラブルが予想されるなら、今のうちにお父様に決めてもらうことが最善策です。

なお、実家をいったんお母様の名義にするか子の名義にするかで悩まれるご家庭も多くあります。次の相続まで見据えて選ぶ必要がある論点です。

父を恨むことにならないために

もしお父様が何も決めずに亡くなってしまったら、兄弟で揉めたとき、最終的に「お父さんがきちんと決めてくれていれば…」と、亡くなった父を恨むことにもなりかねません。

家族の絆を守るためにも、お父様が元気なうちに家族で話し合い、方針を決めておくことが何よりも重要なのです。

兄弟姉妹で特に揉めやすい3つのパターン

実家の分け方そのものに加えて、当事務所へのご相談で特に対立が深くなりやすいのが、次の3つのパターンです。

同居して親を介護した兄弟の「寄与分」をめぐる対立

実家で親と同居し、介護を担ってきた兄弟は「自分は長年尽くしてきたのだから、多くもらって当然」と考えます。一方、離れて暮らす兄弟は「法定相続分どおり平等に」と主張する——この構図は非常に揉めやすいものです。

民法には、被相続人の財産の維持・増加に特別に貢献した相続人の取り分を増やす「寄与分」という制度があります。ただし、認められるのは通常の親族の助け合いを超える「特別の寄与」に限られ、同居や日常的な世話だけでは認められにくいのが実情です。また、相続人以外の親族(長男の妻など)が介護を担った場合の特別寄与料の制度も令和元年(2019年)に設けられていますが、いずれも金額の算定は容易ではなく、感情的な対立になりがちです。

沖縄では、トートーメー(位牌)を継ぐ長男が実家も承継する前提で話が進みやすく、祭祀や介護の負担と他の兄弟の公平感がぶつかりやすい土地柄です。介護の貢献に報いたいのであれば、親御様が元気なうちに遺言でその旨を形にしておくことが、最も確実な予防策です。

生前に援助を受けた兄弟がいる場合の「特別受益」

寄与分と表裏の関係にあるのが特別受益です。「親から多くもらった兄弟がいるのだから、その分は取り分から差し引くべきだ」という主張になります。実家の相続では、住宅資金の援助を受けて家を建てた、実家の敷地に無償で自宅を建てて住んでいる、一人だけ県外の大学の学費や下宿代を親が負担していた、開業資金を出してもらった——といったケースです。

特別受益があると認められると、その贈与分をいったん遺産に加えて各自の取り分を計算します。これを持ち戻しと言います。実家を継ぐ長男が生前に住宅資金の援助も受けていたとなれば、次男の不公平感が高まるのは当然でしょう。

もっとも、実務では認定は簡単ではありません。「扶養の範囲内の援助にすぎない」とされることもあり、何十年も前の贈与は証拠が残っていないのがほとんどです。親御様が遺言などで「持ち戻しはしなくてよい」という意思を示していれば、原則としてそれが尊重されます。

なお、令和5年(2023年)4月1日施行の民法改正により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益・寄与分を主張できなくなりました。「そのうち話し合おう」と放置していると、言い分を主張する機会そのものを失うおそれがあります。

親の預金の「使い込み」を疑われるパターン

同居していた兄弟が親の通帳やキャッシュカードを管理していた場合、相続開始後に他の兄弟から「生前に勝手に引き出していたのではないか」と疑われるケースが少なくありません。実際に使い込みがなくても、記録がなければ疑いは晴らせません。

親の口座から介護費用や生活費を支出する場合は、領収書や出金メモを残し、何にいくら使ったかを説明できるようにしておきましょう。また、亡くなった後に葬儀費用などのために親の口座からお金を引き出す行為は、相続トラブルや法的リスクの火種になります。

話し合いがまとまらない場合——遺産分割調停・審判という進み方

ここまでご紹介した方法を尽くしても、どうしても兄弟の話し合いがまとまらないことがあります。その場合に用意されているのが、家庭裁判所の手続きです。

遺産分割調停から審判へという流れ

まず申し立てるのが遺産分割調停です。法廷で言い争う裁判ではなく、裁判官と調停委員が間に入り、相続人それぞれから事情や希望を交互に聞き取りながら合意点を探る手続きで、相手方と直接顔を合わせずに進められることが多いのが特徴です。申立先は原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所で、沖縄本島にお住まいなら那覇家庭裁判所(事案により各支部)が窓口になります。

期日はおおむね1〜2か月に1回のペースで開かれ、回数を重ねて合意を目指します。必要な期間は事案の複雑さや相続人の数で大きく変わるため「何か月で終わる」とは申し上げられませんが、話し合いで解決する場合より長い時間がかかることは覚悟が必要です。

調停でも合意に至らない場合は審判へ移行し、裁判官が分け方を決めます。ここで希望どおりの結論になるとは限りません。実家を取得したい人に代償金の支払能力がないと判断されれば競売による換価が命じられることもあります。競売は一般の売却より価格が低くなりやすく、「実家も失い、手元に残る金額も少ない」という、誰も望まなかった結末になりかねません。

交渉・調停の代理は弁護士の業務。司法書士はどこまで関われるか

ここは誤解の多いところなので、はっきりお伝えしておきます。相続人同士の交渉を代理することや、遺産分割調停・審判で代理人として活動することは弁護士の業務です。司法書士がご依頼者に代わって他の相続人と交渉することはできませんし、当事務所も行いません。代理人を立てて争う段階に入っているご相談は、弁護士をご紹介する形で対応しています。

一方、司法書士が関われる範囲もはっきりしています。戸籍を収集して相続人を確定すること、登記事項証明書や名寄帳から相続財産の全体像を一覧にすること、合意内容を遺産分割協議書に正確に落とし込むこと、裁判所へ提出する書類を作成すること、そして分け方が決まった後の相続登記で名義を確実に移すことです。

実際には、資料が揃っていない、誰が相続人かも確定していない段階で止まっているご家族が非常に多いのです。そこを整理するだけで話が動き出すことは珍しくありません。裁判所に行く前に一度、全体を整理してみることをおすすめします。

あわせて押さえておきたい関連知識

分け方が決まったら遺産分割協議書に必ず書面化する

どの分け方を選ぶにしても、相続人全員の合意内容は遺産分割協議書という書面にまとめ、全員が実印を押して印鑑証明書を添付します。代償金の支払条件や換価分割の代金の分け方も、この書面に明確に記載しておくことが後日のトラブル防止につながります。書き方や雛形は、次の記事で詳しく解説しています。

分け方が決まらないと登記できない——相続登記の義務化と「相続人申告登記」

話し合いが長引くとき、必ず意識していただきたいのが相続登記の義務化です。令和6年(2024年)4月1日から、不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が義務となり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になり得ます。施行前に発生した相続も対象です。困るのは「分け方が決まらないと、誰の名義にするかも決まらない」という点でしょう。

そのために用意された暫定的な手段が相続人申告登記です。「この不動産について自分は相続人の一人です」と法務局に申し出れば、期限内に義務を履行したものとみなされます。他の兄弟の協力を得ずに単独で申し出られるのが利点です。

ただし、これはあくまで応急処置です。持分が登記されるわけではないため、この状態では実家を売却することも担保に入れることもできません。遺産分割がまとまった後、その日から3年以内に改めて相続登記を申請する必要があります。

実家を相続した後に待っているコストを見落とさない

「実家は自分が引き継ぐ」と手を挙げるとき、多くの方は相続した後に発生し続けるコストを計算に入れていません。毎年の固定資産税・都市計画税、火災保険料と屋根や外壁の修繕(沖縄は塩害と台風の影響が大きく、鉄筋コンクリート造でも定期的な防水が必要です)、伸びの早い草木の草刈り、県外にお住まいなら台風や雨漏りのたびの渡航費と時間。最終的に手放すときには家財の処分と解体の費用もかかります。

さらに深刻なのが、買い手がつかない空き家になるリスクです。管理されていない空き家が「特定空家等」「管理不全空家等」として市町村から勧告を受けると、住宅用地に対する固定資産税の軽減措置が外れ、税負担が増える可能性があります。火災や台風での屋根材・ブロック塀の飛散で近隣に損害を与えれば、所有者が責任を問われることもあります。

分け方の話し合いでは「実家をもらう=得をする」という前提を一度疑ってみてください。維持費や管理の負担まで含めれば、代償金を調整する、あるいは早めに売却を選ぶ判断が家族全体にとって合理的なこともあります。

遺言で実家を一人に集中させるなら「遺留分」に注意

親御様の遺言で実家の行き先を決めておくのは最も有効な予防策ですが、注意点が一つあります。子には遺留分(遺言でも奪えない最低限の取り分)があるため、遺産のほとんどが実家という状況で一人に集中させると、他の兄弟から遺留分侵害額請求を受け、結局は金銭をめぐる争いになることがあるのです。遺留分の仕組みと対策は、次の記事をご覧ください。

実家相続の手続き全体の流れを確認する

実家の相続は、遺言書の確認、相続人・相続財産の調査、遺産分割協議を経て、相続登記で名義を変更するという流れで進みます。どの段階でつまずいているかが分かれば、次にやるべきことも見えてきます。手続き全体の流れは、次の記事にまとめています。

実家の相続と兄弟トラブルに関するよくある質問

Q. 実家に住み続けたい兄と、売却したい弟。話がまとまらない場合はどうなりますか?

話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停、それでもまとまらなければ審判に進みます。審判では裁判所が分け方を決めるため、競売による換価など、双方にとって望まない結果になることもあります。調停まで進む前に、司法書士などの第三者を交えた話し合いで着地点を探ることをおすすめします。

Q. 兄弟の一人が話し合いそのものに応じてくれません。どうすればよいですか?

まず、感情的な対立が理由なのか、単に手続きが面倒で後回しにしているだけなのかを見極めてください。後者であれば、戸籍や財産の資料を揃え、協議書の文案まで用意して「ここに実印を押すだけです」という状態にすると動いてくださることが多くあります。それでも応答がない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てるほかありません。申立書類の作成はお手伝いできますが、代理人として交渉や調停に出席するのは弁護士の業務です。なお、話し合いが長引いても登記義務化の期限は待ってくれないため、相続人申告登記での暫定対応も検討してください。

Q. 実家の評価額をめぐって兄弟で意見が食い違います。どう決めればよいですか?

固定資産税評価額、相続税路線価、不動産会社の査定額のいずれも「正しい価格」であり、どれか一つが絶対の正解ということはありません。大切なのは、金額の議論を始める前に「どの物差しを使うか」を兄弟で合意しておくことです。実務でよく使われるのは、複数の不動産会社の査定の平均値を基準にする方法です。それでも折り合わない場合は、費用はかかりますが不動産鑑定士による鑑定という選択肢もあります。

Q. すでに共有名義で相続登記をしてしまいました。解消できますか?

解消は可能です。共有者間で持分を売買・贈与して一人の名義にまとめる方法や、全員で売却して現金で分ける方法などがあります。話し合いがまとまらない場合は共有物分割請求という法的手続きもありますが、権利者が増える前に早めに動くほど選択肢は多く残ります。

Q. 実家を取得したいのですが、代償金を一括で用意できません。

代償金の分割払いを協議で合意する、金融機関からの借入を利用する、実家の一部の売却と組み合わせるといった方法が考えられます。いずれの場合も、支払時期・金額を遺産分割協議書に明確に記載しておくことが不可欠です。

Q. 疎遠で連絡が取れない兄弟がいます。その人抜きで決められますか?

できません。遺産分割協議は相続人全員の参加が必要で、一部の相続人を除外した協議は無効です。連絡先が分からない場合は戸籍の附票などから住所を調査し、行方不明の場合は不在者財産管理人の選任や失踪宣告といった手続きを検討します。

まとめ

実家を平等に分ける方法は、簡単なようで非常に難しい問題です。以下のポイントを押さえておきましょう。

POINT
  • 完全な平等は難しい: 法律上の平等と、家族の気持ちにおける平等は別物
  • 分け方は4方式: 現物分割・代償分割・換価分割・共有分割。受け取らない選択として相続放棄もある
  • 評価の物差しを先に揃える: 固定資産税評価額・路線価・査定額のどれを使うかを、金額の議論より先に合意する
  • 共有名義は避ける: 将来的に権利関係が複雑になり、トラブルの元に
  • 相続直後にルールを決める: 家族で役割分担や取り決めを書面化する
  • 第三者を入れる: 司法書士などが介在することで、公平なルール作りができる
  • 維持コストまで含めて考える: 固定資産税・修繕・草刈り・遠方からの往復まで見て決める。話し合いが長引くなら相続人申告登記で登記義務化に暫定対応を
  • お父様が元気なうちに決める: 遺言書や生前贈与で、事前に方針を明確にする

家族はちょっとした表現、ちょっとした言い方によって、すれ違い、大きな対立へと発展してしまうことがあります。それが家族というものです。調停や審判という制度はありますが、そこまで進むと分け方は決まっても家族の関係は元に戻りません。だからこそ、その手前で手を打つことに意味があります。

私も長男として、実家を引き継いでいきたいという思いがあります。同時に、長男としての使命や責任の重さも感じています。しかし何より大切なのは、家族が仲良く、次の時代へ引き継いでいけることです。

時代も変わり、実家の意味を見つめ直すいい機会かもしれません。相続を機に、家族でこのことについて話し合う——そうしたチャンスにしていただければと思います。

ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にレスター司法書士法人にご相談ください。

YouTubeやってます!

本記事の内容は、YouTube動画『POINT』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Contact

まずは、話してみてください。

初回相談は無料です。どんな小さなことでもお気軽にお声がけください。

Quick Call

098-987-1628

Office Hours

平日 8:30 – 17:30

監修者 司法書士 日高憲一

この記事の監修者

日高 憲一(レスター司法書士法人 代表社員司法書士)

沖縄県名護市出身。那覇市壺川で開業以来、相続登記・家族信託・渉外登記・事業承継など沖縄の登記・法務案件を幅広く手がける。実務経験20年・相続案件実績2,000件。

代表挨拶・事務所案内を見る

沖縄で相続登記・相続放棄をご検討の方は 相続登記・相続手続きの費用と流れ をご覧ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次