皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
今、日本は超高齢化社会を迎え、まさに「大相続時代」に突入しています。「隣のお父さんが亡くなった」「あそこのおばあちゃんが亡くなった」という話を耳にすることも増えたのではないでしょうか。相続は、もはや他人事ではない時代になっています。
多くの方が相続対策を取られていますが、実は誤った認識のまま対策を進めてしまっているケースが非常に多いのです。「うちの家族は仲がいいから大丈夫」「法律で決まっているから平等でしょう」「有名な専門家に相談したから安心」――そう思っていませんか?
本日は、多くの方が陥りがちな間違った相続対策を3つピックアップして解説いたします。相続で後悔しないために、ぜひ最後までお読みください。
本記事の内容は、YouTube動画『賢い人は知ってる!間違ってる相続対策3選!』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
▶ あわせて確認:相続登記の費用はいくら?内訳と司法書士報酬の相場/沖縄で相続の相談はどこにする?相談先の使い分けと流れ
間違った相続対策その1:「うちの家族は大丈夫」という誤った認識
信頼していた家族でも起こりうるトラブル
「うちの家族は仲がいいから、相続でもめるなんてありえない」――そう思っている方は多いのではないでしょうか。しかし、家族間の信頼だけでは防げないトラブルが実際に起こっているのです。
先日、私が相談を受けた事例をご紹介します。相続手続きを進めていたところ、お父様の通帳を確認すると、亡くなった翌日に100万円が引き出されていたのです。
ご家族は皆、「自分ではない」と否定されました。お互いを信頼しているからこそ、「これは外部の誰かが盗んだに違いない」と考え、被害届を出すために警察に行こうという話にまで発展しました。
防犯カメラが明かした真実
そこで、一緒に銀行へ確認に行くことになりました。銀行には防犯カメラがあり、映像を確認したところ、引き出したのは家族の中の長男だったのです。
静まり返る家族。「お兄ちゃん、どうしたの?」と尋ねると、実は借金があり、ギャンブルやゲームにお金を使っていたことが判明しました。
それまで家族は「うちのお兄ちゃんがそんなことをするはずがない」と完全に信頼していました。しかし、実際には違ったのです。
家族への信頼だけでは不十分
この事例から分かるように、どんなに仲の良い家族でも、金銭が絡むと予期せぬトラブルが起こる可能性があります。
「うちの家族は大丈夫」という前提そのものが、実は危険な認識なのです。相続対策は、家族への信頼とは別に、きちんとした法的な準備を整えておくことが重要です。
間違った相続対策その2:相続財産の受け取り順位を誤解している
相続の優先順位、正しく理解していますか?
相続財産を誰がどのように受け取るか、その優先順位について誤解されている方が非常に多いです。
相続における優先順位には、以下の3つのポイントがあります。
- 遺言書がある場合
- 家族全員での話し合い(遺産分割協議)
- 法律で定められた相続分(法定相続分)
さて、この3つの中で、どれが最も優先されると思いますか?
「法律で決まっているから、法定相続分が絶対でしょう?」と思われるかもしれません。実際、多くの方がそう考えています。
実は遺言書が最優先
しかし、正解は遺言書が最優先なのです。
財産は、お父様やお母様が築いてこられたものです。その財産を誰に相続させるかは、本人が決めることなのです。ですから、遺言書がある場合は、その内容が最も優先されます。
遺言書がない場合は、家族全員での話し合い(遺産分割協議)によって分け方を決めます。この話し合いで合意できれば、その内容が優先されます。
そして、話し合いでまとまらない場合に初めて、法律で定められた法定相続分に従って平等に分けることになるのです。
遺言書は早めに作成すべき
ここで重要なのは、遺言書は認知症になると書けなくなるという点です。
例えば、80歳の方が公証役場に行って「遺言書を作成したい」と申し出ても、「判断能力が不十分」として断られることさえあります。
ですから、遺言書はお父様・お母様が元気なうちに、少なくとも70歳くらいまでには作成しておくことをお勧めします。
遺言書は一度作成しても、後から修正することができます。ですから、早めに作成しておいて、状況に応じて内容を見直していくのが賢明です。
遺産分割協議で考慮されるべき事情
家族での話し合い(遺産分割協議)の際には、考慮されるべき事情があります。
例えば、会社を辞めて親の介護を頑張った方がいる場合、その貢献は財産の維持・増加に寄与したと考えられます。このような方は、寄与分として特別に評価されるべきではないでしょうか。
寄与分は、「大きな声で主張すればいい」というものではありません。介護の記録や証拠をきちんと残しておくことが重要です。
特別受益についても知っておくべき
逆に、特別受益という考え方もあります。これは、親の財産を前渡しとして受け取っている場合のことです。
具体的には以下のようなケースです。
- 結婚する時に親からマンションを買ってもらった
- 住宅を建てる時に資金援助を受けた
- 事業資金の援助を受けた
このような場合、既に親の財産の一部を受け取っていると考えられるため、相続の際にはその分を考慮して公平に分けることになります。
寄与分と特別受益、この2つは相続の話し合いで重要なポイントとなりますので、ぜひ覚えておいてください。
遺言書作成のタイミング、どう切り出す?
「遺言書を作った方がいい」と分かっていても、親に切り出しにくいですよね。
そこで、話すべきタイミングというものがあります。親のタイプにもよりますが、例えば以下のような方法があります。
「私が司法書士の日高さんにお願いしたら、『今更遺言を作るのは遅い。今すぐ作りなさい』と言われたんだけど、どう思う?」
このように、第三者の専門家の意見を借りる形で切り出すと、角が立ちにくいです。
また、親の知人が亡くなったタイミングも一つのきっかけになります。「○○さんが亡くなったみたいだよ。お父さんもそろそろ考えた方がいいんじゃない?」という具合です。
適切なタイミングを見計らって、家族で相続について話し合う機会を持つことが大切です。
間違った相続対策その3:一人の専門家に頼りすぎている
相続は総合的に考えるべき
「有名な税理士の先生がこう言ったから、この対策で間違いない」――そう思い込んでいませんか?
実は、一人の専門家の意見だけに偏るのは危険です。
相続にはさまざまな事情が絡み合っており、総合的に考えて対策を立てる必要があります。一人の専門家の視点だけでは、見落とす部分が出てきてしまう可能性があるのです。
相続には複数の専門分野が関わる
相続対策には、以下のようにさまざまな専門分野が関わります。
- 税理士: 相続税対策、保険の活用など
- 不動産業者: 現金で不動産を購入して相続税評価額を下げる対策など
- 弁護士: トラブルに備えた法的対応
- 司法書士: 名義変更、登記、遺言書作成のサポートなど
このように、相続対策には複数の専門家の知見が必要になります。全体を把握しながら進めていくことが、より良い対策につながります。
セカンドオピニオンを活用する
一人の専門家に相談したら、それで終わりではありません。セカンドオピニオンとして、他の専門家にも意見を聞いてみることをお勧めします。
「こう言われたけれど、他の専門家はどう考えるだろう?」と確認することで、より適切な対策が見えてくることもあります。
実際、「ある対策に従って進めたけれど、後からトラブルが生じてしまった」「もう少し相続税を安くできる方法があったのに」という後悔の声も少なくありません。
相続は長期スパンでトータルの事情を考える必要があるため、慎重に、そして複数の視点から検討することが大切です。
司法書士が窓口となって総合サポート
「複数の専門家に相談するのは大変そう…」と思われるかもしれません。
実は、司法書士が窓口となって、必要な専門家をコーディネートすることも可能です。
例えば、税理士が必要なら税理士を、弁護士が必要なら弁護士を、それぞれの専門家と連携しながら、一括でトータルサポートすることができます。
ですから、まずは司法書士にご相談いただければ、全体を見渡しながら適切な対策を一緒に考えていくことができます。
相続は「家族という名の病」と言われるほど難しい
最後にお伝えしたいのは、相続には特別な家族の感情が絡むということです。
「家族という名の病」という言葉があるほど、相続は難しい問題なのです。お金が絡むと、それまで仲が良かった家族でも、予期せぬ対立が生じることがあります。
だからこそ、早めに対策を取り、慎重に専門家の意見を聞きながら進めることが重要です。
100点満点の対策はないかもしれません。しかし、より円満に、よりスムーズに相続を進めるためのサポートをすることは可能です。
まだある!司法書士がよく見る相続対策の失敗類型4つ
ここまで3つの間違いをご紹介しましたが、実務の現場では、ほかにも典型的な失敗パターンがあります。ここでは、当事務所へのご相談でも特に多い4つの失敗類型を解説いたします。
失敗類型1:生前贈与をしたつもりが「名義預金」と扱われる
「子や孫の名義の口座に、毎年コツコツお金を移してきた」――これは相続対策の定番のように思われていますが、やり方を誤ると贈与として認められないことがあります。
贈与は「あげます」「もらいます」という双方の合意で成立する契約です。通帳や印鑑を親御様が管理したままで、お子様本人がその口座の存在すら知らないような場合、その預金は名義だけが子のもの、実質は親の財産――いわゆる「名義預金」として、相続財産に含めて扱われる可能性があるのです。長年の対策が、まったく意味をなさなかったという結果になりかねません。
- 贈与契約書を作成し、贈与のたびに記録を残す
- 通帳・印鑑・キャッシュカードは受け取る側が管理する
- 受け取った本人が実際にその口座を使える状態にしておく
なお、贈与税には年110万円の基礎控除がありますが、不動産を生前贈与する場合は、登録免許税や不動産取得税の負担が相続の場合より重くなるなど、現金の贈与とは考慮すべき点が異なります。不動産の生前贈与にかかる費用・税金の詳細は、以下の記事で解説しています。
▶ あわせて確認:親から子へ不動産の名義変更|生前贈与の費用・税金
失敗類型2:不動産を「とりあえず共有名義」にしてしまう
「兄弟平等に、実家は2分の1ずつの共有名義で」――一見公平に思えるこの分け方も、実務では後悔につながりやすい典型例です。
共有名義の不動産は、売却などの処分に共有者全員の同意が必要です。一人でも反対すれば売れず、活用もできません。さらに共有者の誰かが亡くなると、その持分はまたその家族へ相続され、世代を重ねるごとに共有者がねずみ算式に増えていきます。気づけば「会ったこともない親族」と共有している、という状態になりかねません。
沖縄では、軍用地のように手放す予定のない土地を「とりあえず兄弟で共有に」してしまうケースが見受けられます。共有者が県外に散らばると、いざという時の手続きの負担も大きくなります。遺言書で取得者を決めておく、代償金で調整するなど、できる限り単独名義で承継できる形を検討しましょう。
失敗類型3:せっかく書いた遺言書が方式不備で無効に
遺言書を残していても、法律で定められた方式を満たしていなければ無効になります。自筆証書遺言の場合、全文・日付・氏名を自書し、押印することが必要です(財産目録はパソコン作成等も可能です)。
実務でよくある不備には、次のようなものがあります。
- 日付を「令和◯年◯月吉日」と書いてしまい、日付の特定ができない
- 夫婦連名で1通の遺言書を作ってしまう(共同遺言は禁止されています)
- 訂正の方式を誤り、訂正部分が効力を持たない
- 財産の記載があいまいで、どの不動産・口座か特定できない
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば形式面の確認は受けられますが、内容の有効性まで保証されるわけではありません。確実性を重視するなら、公証人が関与する公正証書遺言をお勧めします。作成の手順や費用は以下の記事をご覧ください。
▶ あわせて確認:遺言書の作成費用はいくら?自筆証書と公正証書の手順・相場
失敗類型4:「まだ早い」と先延ばしして、認知症発症で対策不能に
相続対策の失敗で最も取り返しがつかないのが、先延ばしにしているうちに認知症を発症してしまうケースです。
判断能力が失われた後は、遺言書の作成も、生前贈与も、不動産の売却も、原則としてできなくなります。成年後見制度を利用することになりますが、成年後見はご本人の財産を守ることを目的とした制度であり、相続対策のための積極的な資産の組み替えや贈与は基本的にできません。つまり、認知症になった時点で、相続対策の選択肢はほぼ閉ざされてしまうのです。
元気なうちに備える選択肢の一つが家族信託です。信頼できるご家族に財産の管理・処分を託しておく仕組みで、認知症を発症した後も、託されたご家族が財産管理を続けられます。ただし、家族信託も判断能力があるうちにしか組めませんし、どのご家庭にも必要というわけではありません。詳しくは以下の記事で解説しています。
▶ あわせて確認:家族信託は認知症になってからでは遅い?/家族信託は必要ない?不要なケース6つ
失敗しない相続対策の正しい進め方|順番は「現状把握→分割→納税・評価」
相続対策の失敗の多くは、取り組む順番の間違いから生まれます。「節税」から入ってしまい、家族間の分け方がおろそかになって争いに発展する――これが典型的なパターンです。正しい順番は次の3ステップです。
ステップ1:現状把握(財産と相続人を洗い出す)
まず、どんな財産がどれだけあるのか、財産目録を作って全体像をつかみます。預貯金・不動産・有価証券・保険、そして借金などのマイナスの財産も含めて洗い出します。
このとき必ず確認していただきたいのが、不動産の名義です。「実は祖父母の名義のままだった」というケースは沖縄でも珍しくなく、前の世代の相続手続きが残ったままでは、対策の前提が崩れてしまいます。あわせて、戸籍をたどって相続人が誰になるのかも確定させておきます。
ステップ2:分割対策(誰に何を渡すかを決める)
次に、誰にどの財産を渡すかという分割の設計です。ここでの中心は遺言書の作成です。どんなに節税できても、家族が争ってしまえば相続対策は失敗です。不動産が多く現金が少ないなど、分けにくい財産構成の場合は、財産の組み替えや代償分割の準備もこの段階で検討します。
ステップ3:納税・評価対策は最後に
分割の方針が固まってはじめて、納税資金の準備や評価額の対策を検討します。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除があり、そもそも相続税がかからないご家庭も多くあります。「節税のために」と不要な対策に飛びつく前に、まず自分の家に納税の問題があるのかを確認しましょう。納税が見込まれる場合は、納税資金として現金を残す、生命保険を活用するといった準備を計画的に進めます。
相続対策の失敗に関するよくある質問
Q. 相続対策は何歳から始めるべきですか?
早ければ早いほど選択肢が多くなります。遺言書も生前贈与も家族信託も、判断能力があるうちにしかできません。本文でもお伝えしたとおり、遺言書は70歳くらいまでには作成し、状況の変化に応じて見直していくことをお勧めします。
Q. 毎年110万円ずつ贈与していれば相続税対策になりますか?
基礎控除の範囲内でも、通帳や印鑑を親が管理したままでは名義預金と扱われ、対策にならないおそれがあります。また、相続人への贈与のうち相続開始前一定期間のもの(令和6年以降の贈与から、段階的に7年分まで拡大)は相続財産に加算される点にも注意が必要です。贈与契約書などの記録を残し、計画的に行いましょう。
Q. 親がすでに認知症です。今からできる対策はありますか?
判断能力の程度によります。完全に失われている場合、新たな遺言や贈与、家族信託は原則できず、成年後見制度による財産の保護が中心になります。軽度であれば、医師の診断や公証人の確認を経て公正証書遺言を作成できる場合もあります。「もう無理」とあきらめる前に、一度ご相談ください。
まとめ
本日は、多くの方が陥りがちな間違った相続対策3選について解説いたしました。
- 「うちの家族は大丈夫」という過信は禁物: どんなに仲の良い家族でも、金銭が絡むと予期せぬトラブルが起こる可能性がある。法的な準備をきちんと整えることが重要
- 相続の優先順位を正しく理解する: 遺言書が最優先。遺言書は認知症になると作成できないため、元気なうちに早めに作成しておくべき。寄与分や特別受益といった考え方も知っておくこと
- 一人の専門家に頼りすぎない: 相続は総合的に考えるべき問題。複数の専門家の意見を聞き、セカンドオピニオンも活用する。司法書士が窓口となって、必要な専門家をコーディネートすることも可能
相続は「家族という名の病」と言われるほど、感情が絡む難しい問題です。早めの対策と、専門家への相談が、円満な相続への第一歩となります。
ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にレスター司法書士法人にご相談ください。全体を見渡しながら、トータルでサポートさせていただきます。
本記事の内容は、YouTube動画『POINT』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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