皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
「親から実家をもらったら、800万円もの贈与税を請求された」これは実際にあった話です。
親子間での不動産の名義変更は、一見すると単純な手続きに思えるかもしれません。
しかし、税金の世界では思わぬ落とし穴が待っています。
実際に、親が施設に入るため空き家になった実家を、善意で子どもの名義に変更したところ、800万円もの贈与税が課されたケースがあります。
弁護士に契約書を作ってもらい、司法書士に名義変更を依頼し、法律的には何も問題がなかったにもかかわらず、税金の世界では高額な課税対象となってしまったのです。
このような事態を避けるためには、贈与税の仕組みを理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。
法律上問題がなくても、税務上は別の判断になることを知っておく必要があります。
本日は、親子間での不動産名義変更における贈与税の仕組みと、税金を抑えるための具体的な対策について解説いたします。
本記事の内容は、YouTube動画『不動産を親から子へ名義変更したら贈与税が!?【相続】』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
贈与税とはどのような税金なのか
贈与税は、いわば「怪物(モンスター)税金」と言えるほど、税率が高い税金です。
税率は10%から55%までの累進課税で、金額が大きくなればなるほど税率も高くなります。最高税率は55%にも達します。
贈与税の基礎控除は110万円のみ
贈与税の最大の特徴は、基礎控除が110万円しかないという点です。
つまり、年間110万円までの贈与であれば税金がかかりませんが、それを超えた分には高い税率で課税されます。
具体例を見てみましょう。
- 親から2,500万円の不動産を贈与された場合、贈与税は約800万円
- 1,000万円の贈与でも、贈与税は約300万円(約3割が税金)
このように、贈与税は平均して贈与額の約3割がかかると考えておいた方がよいでしょう。
2,500万円の価値がある大切な実家をもらったのに、800万円の贈与税が払えず、その家を売却せざるを得なくなるケースもあります。
相続税との比較
贈与税と比較するために、相続税について見てみましょう。
相続税は、親が亡くなって財産を引き継ぐ際にかかる税金ですが、贈与税よりも税金がかからない枠が圧倒的に大きいのです。
相続税の基礎控除額
- 基本控除:3,600万円
- 追加控除:600万円×相続人の数
例えば4人家族の場合、600万円×4人=2,400万円となり、基本控除の3,600万円と合わせると6,000万円まで相続税がかかりません。
- 贈与税の控除額例:110万円(年間)
- 相続税の控除額例:6,000万円(4人家族の場合)
税金だけを考えると、相続税の方が圧倒的にお得です。しかし、実際には相続まで待てない、あるいは待たない方が良い事情があるのです。
なぜ相続ではなく贈与を選ぶのか
「税金が安いなら相続まで待てばいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、相続には以下のような問題があります。
相続の時に発生する問題
- 遺産分割協議が必要:相続人全員の話し合いが必要
- 全員の合意が必要:一人でも反対すれば名義変更できない
- 実印と印鑑証明書の添付:全員分が必要でハードルが高い
相続の時になると、やはり欲が出てくることもあり、家族でも意見が合わないことがあります。特に不動産は切り分けることができないため、より複雑になります。
実際に扱った事例では、兄が親の土地に家を建てたものの、相続で土地を弟が取得し、後に兄弟仲が悪化して「建物を壊して出ていけ」と言われたケースもあります。さらに悲惨なのは、土地を取得した弟が亡くなり、その配偶者の名義になった後、その配偶者から「出ていけ」と言われた事例もあるのです。
このような理由から、今すぐ自分の名義にしておきたいという状況が生まれます。
- 親が亡くなってから兄弟で意見が合わない可能性がある
- 親の土地に自分の家を建てたい
- 親が施設に入るため実家が空き家になる
高い税金を払ってでも贈与にする必要性がある場合、どのように税金を抑えるかが重要になるのです。
贈与税をゼロにする方法
相続税の世界に寄せる契約方法があります。これは合法的に認められている方法です。
死因贈与契約の活用
契約は今行いますが、「死んだら上げる」という条件をつけるのです。効力の発生するタイミングを相続の時にずらすことで、税金の扱いを相続税にすることができます。
これは「死因贈与契約」と呼ばれる方法で、今すぐ権利を確保したいけれど税金は抑えたいという方にとって有効な選択肢です。契約時に仮登記をすることもできます。
この方法の詳細については、また別の機会に詳しく解説いたしますが、贈与税の負担を避けつつ、将来の権利を確保できる方法として覚えておいていただければと思います。
贈与税を大幅に減らす3つの対策
贈与税の対策を考える前に、以下の前提条件を把握しておく必要があります。
対策を考える前の前提条件
- 親の財産状況:どのような財産を持っているか(不動産の評価額など)
- 家族関係:兄弟姉妹の数、孫の人数
- 名義変更の時期:今すぐ必要か、相続まで待てるか
これらを踏まえた上で、贈与税の対策は大きく3つあります。
1. 暦年課税を活用する
暦年課税とは、年間110万円までは贈与税がかからないという制度です。この「国税から与えられたポイント」のようなものを、毎年積み重ねていく方法です。
暦年課税の活用例
- 10年間継続:110万円×10年=1,100万円(贈与税ゼロ)
- 20年間継続:110万円×20年=2,200万円(贈与税ゼロ)
さらに効果的なのは、複数の人に贈与する方法です。
- 5人に贈与:110万円×5人=550万円/年
- 10年間継続:550万円×10年=5,500万円(贈与税ゼロ)
この方法は早めに始めることが重要です。親から子への贈与を計画的に進めることで、将来の相続時の負担を大きく減らすことができます。
2. 相続時精算課税制度を利用する
相続時精算課税制度とは、2,500万円までの贈与であれば贈与税がかからない特例制度です。
冒頭の事例で800万円の贈与税を請求された方も、この特例を申告していれば贈与税はゼロだったのです。しかし、この特例は申告しなければ適用されません。多くの方がこの制度を知らないため、高額な贈与税を支払うことになってしまうのです。
相続時精算課税制度のポイント
- 2,500万円まで贈与税がかからない
- 必ず申告が必要(自動的には適用されない)
- 孫まで使える
さらに効果的なのは、複数の人に適用する方法です。
- 5人に適用:2,500万円×5人=1億2,500万円(贈与税ゼロ)
この制度は親だけでなく、祖父母から孫への贈与にも使えます。
3. 暦年課税と相続時精算課税制度の併用
2023年の法律改正により、暦年課税と相続時精算課税制度の併用が認められるようになりました。これにより、より柔軟な贈与税対策が可能になっています。
併用の効果例
- 暦年課税(5人×10年):5,500万円
- 相続時精算課税(5人):1億2,500万円
- 合計:最大1億8,000万円まで贈与税をかけずに財産移転が可能
この併用を上手に活用することで、大幅に贈与税を抑えることができます。
専門家への相談が重要な理由
税理士(資産税専門)への相談
贈与税や相続税の問題は、税金の専門家である税理士に相談することが基本です。ただし、税理士の中でも資産税を専門にしている税理士に相談することをお勧めします。
資産税を専門とする税理士であれば、以下のようなシミュレーションが可能です。
- 暦年課税で進めた場合の税金
- 相続時精算課税制度を使った場合の税金
- 両者を併用した場合の税金
- どの方法が最も有利かの比較
細かくシミュレーションすることで、最適な方法を選ぶことができます。
司法書士との連携
不動産の名義変更が絡む場合、司法書士も必要になります。名義変更の登記手続きは司法書士の専門分野だからです。
今回の事例のように、法律上は問題なくても税務上は高額な税金がかかるケースでは、司法書士と税理士が共同して進めることが理想的です。
私の事務所では、親子間での不動産名義変更のご相談を受けた際、まず「贈与税はどうなっていますか?」と確認します。そして税理士にシミュレーションを依頼し、特例を使うことで800万円のような高額な贈与税がかからないよう手続きを進めます。
このように、法律・登記・税務の専門家が連携することで、安心して手続きを進めることができます。
まとめ
親子間での不動産名義変更における贈与税対策について、以下の重要なポイントをまとめます。
- 贈与税は高額:平均して贈与額の約3割が税金になる
- 基礎控除は年間110万円のみ:相続税(6,000万円程度)と比べて非常に少ない
- 暦年課税の活用:毎年110万円の非課税枠を複数人・長期間で活用する
- 相続時精算課税制度:2,500万円まで贈与税ゼロ(要申告)
- 2つの制度の併用が可能:2023年の法律改正で認められた
- 早めの計画が重要:長期的に取り組むことで大きな節税効果
- 専門家への相談:資産税専門の税理士と司法書士の連携が理想的
贈与税は「法律的に問題ない」ことと「税金がかからない」ことが別物です。善意で親の実家を引き継いだのに、800万円もの贈与税を請求されるような事態を避けるためには、事前の対策が不可欠です。
ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にレスター司法書士法人にご相談ください。財産状況や家族関係を踏まえた上で、最適な方法をご提案させていただきます。
本記事の内容は、YouTube動画『POINT』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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