皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
「そろそろ実家をどうするか考えないと」「空き家のまま置いておくのも心配だけれど、売るなら一番いいタイミングはいつなんだろう」——実家の売却について、そんなふうに悩まれている方は非常に多いのではないでしょうか。
実は、実家をいつ・誰の名義で売るかによって、支払う税金の額が数百万円単位で変わることがあります。「親が元気なうちに売った方がいいのか」「相続してから売った方がいいのか」——この選択を間違えると、本来使えたはずの税金の特例が使えなくなり、手元に残るお金が大きく減ってしまうのです。
さらに、実家の売却には「名義変更(相続登記)」という前提となる手続きがあり、共有名義や認知症といった問題が絡むと、そもそも売ること自体ができなくなってしまうこともあります。
本日は、実家売却のベストなタイミングを判断するために知っておきたい「生前売却と相続後売却の税金の違い」「使える税金の特例」、そして母親が存命のうちに気をつけたい「3つの地雷」について、沖縄での実務も踏まえて解説いたします。ぜひ最後までお読みいただき、ご家族での話し合いのきっかけにしてください。
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実家売却の全体像|「名義変更→売却」という順番
まず、実家を売却するまでの大まかな流れを押さえておきましょう。相続した実家の場合、いきなり売買契約に進めるわけではありません。
- 誰が相続するか(遺産分割)を決める
- 実家の名義を相続人へ変更する(相続登記)
- 不動産会社に売却を依頼する
- 売買契約・引き渡し
- 翌年に譲渡所得税の確定申告を行う
ここで見落とされがちなのが、②の相続登記(名義変更)が売却の前提になるという点です。亡くなった親の名義のままでは、不動産を売ることはできません。買主に名義を移すためには、いったん相続人へ名義を変えておく必要があるのです。
しかも、2024年4月から相続登記が義務化されており、相続を知った日から原則3年以内に登記をしないと、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。「売るときにまとめてやればいい」と放置していると、いざ売却したいときに手続きが間に合わない、ということにもなりかねません。相続登記の手続きや必要書類については、法務局が制度の概要を公表しています(法務局「相続登記の申請義務化について」)。
なお、名義を「誰にするか」で税金が変わってくるため、名義変更はできるだけ早い段階で、売却まで見据えて決めることが大切です。名義変更にまつわる注意点は、こちらの記事でも詳しく解説しています。
実家売却のタイミングで税金が大きく変わる|生前売却と相続後売却
結論から申し上げると、実家売却のタイミングを考えるうえで最も重要なのは、「3,000万円の特別控除」という税金の特例が使えるかどうかです。この特例が使えるかどうかで、手元に残るお金が数百万円単位で変わります。
実家売却で使える可能性がある3,000万円控除には、大きく分けて2種類あります。どちらが使えるかは「いつ・誰が住んでいたか」で決まります。
① マイホームを売ったときの3,000万円特別控除(居住用財産の特例)
実際に住んでいた人(本人)が、そのマイホームを売るときに使える特例です。売却益のうち3,000万円までは税金がかからなくなります。住まなくなってからでも、住まなくなった日から3年目の年末までに売れば対象になり得ます(所有期間の長短は問いません)。
制度の詳しい要件は国税庁が公表しています(国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例)。
② 相続した空き家を売ったときの3,000万円特別控除(空き家特例)
親が亡くなり、相続した実家(空き家)を相続人が売るときに使える可能性がある特例です。一定の要件を満たせば、売却益から最高3,000万円を控除できます。ただし2024年1月1日以降の売却で相続人が3人以上いる場合は、1人あたりの控除額が2,000万円に減額されます。
この特例には、昭和56年5月31日以前に建てられた家であること、相続の直前まで親が一人で住んでいたこと、耐震基準を満たすように改修するか家屋を取り壊して売ることなど、細かな条件があります。適用期限もあり、対象となる期間が定められています。詳しくは国税庁の解説をご確認ください(国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)。
どちらの特例が使えるかで税金はこれだけ変わる
特例が使える場合と使えない場合で、税額がどれだけ変わるのか。あくまで一例ですが、実家が5,000万円で売れ、税率を20%と仮定して比較してみます。
- 売却価格:5,000万円
- 3,000万円控除:使えない
- 課税される金額:約5,000万円
- 税金の目安:約1,000万円
- 売却価格:5,000万円
- 3,000万円控除:使える
- 課税される金額:約2,000万円(5,000万円-3,000万円)
- 税金の目安:約400万円
この差額は約600万円です。取得費や譲渡費用、所有期間による税率の違いなどで実際の金額は変わりますが、「特例が使えるタイミングで売る」ことがいかに大切か、おわかりいただけると思います。
なお、上記の税額はあくまで概算の一例です。実際の税額はケースごとに大きく異なり、①と②の特例は要件も併用の可否も異なります。具体的な税額の試算や特例の適用可否については、必ず税理士または所轄の税務署にご確認ください。当事務所でも、税理士と連携しながら「売る前」の段階でご相談を承っています。
母が存命のうちに気をつけたい「3つの地雷」
実家売却のタイミングと並んで大切なのが、親(特にお母さま)が元気なうちに、名義と対策を整えておくことです。ここを誤ると、税金の問題だけでなく、そもそも「売りたくても売れない」状況に陥ってしまいます。私が実務で数多く見てきた「3つの地雷」をご紹介します。
地雷①:実家を母親名義にすると税金で600万円以上損することがある
「お母さんが住んでいるのだから、名義もお母さんに」——自然な判断に思えますが、ここに落とし穴があります。相続でお母さまの名義にした後、お母さまが施設に入所するケースが非常に多いのです。
施設に入って実家に住まなくなった状態で売却しようとすると、「住んでいた人が売る」という条件を満たせず、先ほどの3,000万円特別控除が使えなくなってしまうことがあります。その結果、先の一例のように税金が600万円以上変わってしまうのです。お母さま名義にすること自体が悪いわけではありませんが、この売却タイミングのリスクを理解したうえで判断していただく必要があります。
地雷②:共有名義はトラブルの温床になる
兄弟3人で1/3ずつの共有名義——平等に見えますが、共有名義こそがのちのちの大きなトラブルの原因になりやすいのです。注意点は次の3つです。
- 全員の同意がなければ売れない:共有不動産の売却には共有者全員の同意が必要で、1人でも反対すれば売却できません。
- 疎遠な兄弟がいると身動きが取れない:連絡の取れない共有者がいると同意を集められず、売ることも管理することもできません。相続が重なると共有者はさらに増えていきます。
- 持ち分を第三者業者に売られるリスク:共有持ち分は他の共有者の同意なく第三者へ売れます。近年は持ち分だけを買い取る業者もおり、共有物分割請求を盾に買い叩かれる恐れがあります。
「とりあえず共有名義にして、売れたら分ければいい」という考えが、いかに実家売却を難しくするか。売却を見据えるなら、名義は分散させないことが原則です。
地雷③:認知症対策の遅れが売却そのものを止める
3つ目が、認知症への備えの遅れです。親が認知症(判断能力が著しく低下した状態)と判断されると、不動産の売却も名義変更も預金の引き出しもできなくなります。実家をお母さま名義にしていた場合、お母さまが認知症になった時点で、実家に関するあらゆる手続きが止まってしまいます。
こうした場合に使われるのが成年後見制度ですが、裁判所が選任した法定後見人は「本人の財産を守ること」を最優先に動くため、「実家を売りたい」という家族の意向が通らないことがあります。だからこそ、判断能力があるうちに、家族信託や任意後見といった対策を講じておくことが重要です。これらは認知症になってからでは準備できません。
- 家族信託:信頼できる家族に財産の管理を契約で委託する仕組み。実家の売却など、契約で決めた範囲を本人が認知症になった後も続けて行えます。
- 任意後見:認知症になる前に、自分で後見人を選んで契約しておく制度。裁判所が選ぶ法定後見と違い、事情をよく知る身内を指定できます。
沖縄の実家売却で特に注意したいこと
沖縄で実家の売却を考える場合、本土とは異なる事情がいくつかあります。当事務所が沖縄で数多くのご相談を受けるなかで、特に注意が必要だと感じる点をお伝えします。
軍用地が含まれる場合
実家の敷地や相続財産に軍用地が含まれるケースは、沖縄ならではです。軍用地は借地料(地代)収入を生む資産として扱われるため、売却するか保有し続けるかの判断、評価の考え方が通常の宅地とは異なります。相続財産に軍用地が含まれる場合は、名義や分け方を決める段階から専門家に相談されることをおすすめします。
共有持分・トートーメー(祭祀承継)が絡む場合
沖縄では、古くからの土地が親族間で細かく共有名義になっていることが少なくありません。世代を重ねるうちに共有者が数十人に及び、全員の所在や同意を確認するだけでも大変な労力がかかります。実家を売ろうとして初めて「名義が整理されていない」と気づくケースも多いのです。
また、位牌(トートーメー)を継ぐ人が実家(仏壇のある家)をどうするか、という祭祀承継の問題が、売却の話し合いに影響することもあります。法律だけでは割り切れない、沖縄特有の家族の事情に配慮しながら進める必要があります。こうした複雑なケースこそ、地元で相続を扱う専門家にご相談ください。
よくある質問
実家を売るなら、親の生前と相続後のどちらが得ですか?
ケースによって異なります。親が実際に住んでいるうちに親自身が売れば「マイホームを売ったときの3,000万円特別控除」が使いやすく、相続後に空き家を売る場合は「空き家特例」の要件を満たすかどうかがポイントになります。どちらが有利かは、家の建築年・居住状況・相続人の人数・売却時期などで変わるため、売る前に税理士や税務署、司法書士へご相談いただくのが確実です。
親が認知症になってしまったら、実家は売れないのですか?
判断能力が著しく低下したと判断されると、原則としてご本人名義の不動産を売却することはできなくなります。成年後見制度を使う方法はありますが、家庭裁判所が選んだ後見人が売却を認めないこともあり、家族の思うようには進まないのが実情です。認知症になる前であれば、家族信託や任意後見で備えておくことができます。
名義変更(相続登記)をしないまま実家を売ることはできますか?
できません。亡くなった方の名義のままでは売買による名義移転ができないため、いったん相続人へ相続登記をしてから売却する流れになります。2024年4月から相続登記は義務化されており、放置すると過料の対象となる可能性もあります。売却を考え始めた段階で、早めに名義の整理を進めることをおすすめします。
兄弟で共有名義にしておけば公平で安心ではないですか?
一見公平に見えますが、共有名義は売却時に全員の同意が必要になり、1人でも反対すれば売れません。疎遠になったり、借金・差し押さえ・持ち分の第三者への売却といった問題が起きると、実家が塩漬けになってしまいます。将来的に売却する可能性があるなら、共有名義は避け、誰か1人の名義にまとめる方向で検討されるのが安全です。
まとめ
実家売却のベストなタイミングと、後悔しないための注意点を解説してまいりました。要点を整理します。
- 売却は「名義変更(相続登記)→売却」の順番。親名義のままでは売れず、相続登記は2024年4月から義務化されている。
- タイミングで税金が大きく変わる。「マイホームを売ったときの3,000万円控除」と「相続空き家の3,000万円控除」のどちらが使えるかで、手取りが数百万円変わることがある(本文の金額はいずれも一例)。
- 母が存命のうちの3つの地雷=①母親名義(施設入所で控除が使えず600万円級の差)②共有名義(売れない・買い叩き)③認知症対策の遅れ(売却が凍結)。
- 沖縄特有の事情=軍用地・多数の共有持分・トートーメー(祭祀承継)が売却の判断や話し合いに影響する。
- 税額の具体的な試算・特例の適用可否は、必ず税理士または税務署に確認する。名義や売却の段取りは、早い段階で司法書士に相談すると選択肢が広がる。
実家の売却は、「いつ・誰の名義で・どう売るか」の判断ひとつで、結果が大きく変わります。「何から手をつければいいのかわからない」という段階でも大丈夫です。まずはその交通整理から始めましょう。
レスター司法書士法人では、窓口を一つにしてワンストップで対応しております。税理士など他の専門家とも連携しながら、実家の名義・売却・相続対策をまとめてご相談いただけます。初回のご相談は無料で承っておりますので、ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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