# 【実話】もしも夫が亡くなったら…自宅を守り抜く「配偶者居住権」の活用術
皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
「もし夫が先に亡くなったら、今の家に住み続けられるだろうか…」そんな不安を抱えたことはありませんか?実は、この不安は決して取り越し苦労ではありません。相続が発生した後に、自宅から追い出されてしまうケースは、現実に起きているのです。
息子が家を相続した後、「お母さん、家を売るから出ていってほしい」と言われる。あるいは息子本人ではなく、息子の配偶者から「出ていってほしい」と迫られる。そんな話、にわかには信じられないかもしれませんが、これは決して珍しいことではありません。
このような事態を防ぐために、2020年の民法改正で新たに創設されたのが「配偶者居住権」という制度です。配偶者、つまり婚姻届を提出した法律上の夫・妻が、亡くなった方の自宅に住み続ける権利を法的に守るための仕組みです。
本日は、この配偶者居住権について「なぜ知っておく必要があるのか」「どのように役立つのか」を、具体的な数字を使いながらわかりやすく解説いたします。相続に備えてお父さん名義の自宅に住んでいる方、あるいはそのご家族の方には、ぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。
配偶者居住権が必要な3つの理由
配偶者居住権は、残された配偶者(多くの場合、奥様)の生活を守るために設けられた制度です。この権利を知っておくべき理由は、以下の3つです。
- 相続財産の分け方を柔軟に調整できるから
- 他の相続人から「出ていけ」と言われても住む権利を守れるから
- 使い方によっては相続税対策になるから
それぞれ詳しく解説します。
1. 相続財産の分け方を柔軟に調整できるから
具体的な事例で考えてみましょう。
お父さんが4,000万円の自宅と2,000万円の現金、合計6,000万円の財産を残して亡くなりました。相続人はお母さんと子供1人です。この場合、法律で定められた相続分(法定相続分)はお母さんと子供で各1/2ずつ、つまりそれぞれ3,000万円ずつです。
ここで「お母さんはずっと住んでいた家をもらえばいい」という話になりやすいのですが、4,000万円の家をもらうと、本来の取り分3,000万円を1,000万円も超えてしまいます。すると、子供側から「もらいすぎた分を返してほしい」という請求が生じる可能性があります。
お母さんの立場から見るとどうでしょうか。4,000万円の豪邸を手に入れたとしても、手元の現金がなければスーパーで食料品も買えません。これは「実家貧乏」とも呼ばれる状態で、不動産は持っていても現金がなくて生活に困るというケースです。
配偶者居住権は、この問題を解決するために生まれた制度です。仕組みはシンプルで、「所有する権利」と「住む権利」を分けるというものです。
たとえば4,000万円の自宅を以下のように分けます。
- 配偶者居住権(住む権利):2,000万円分 → お母さんが取得
- 所有権(所有する権利):2,000万円分 → 息子が取得
お母さんは3,000万円の取り分のうち、2,000万円を「住む権利(配偶者居住権)」として受け取り、残りの1,000万円を現金で受け取ることができます。これにより、住む場所も確保しながら、老後の生活資金となる現金も手元に残せるのです。
2. 他の相続人から「出ていけ」と言われても住む権利を守れるから
「息子が家を相続したとしても、まさか実の子供が追い出すことはないだろう」と思われるかもしれません。ところが、現実にはそうとも言い切れないのです。
息子本人が「住んでいていいよ」と思っていても、息子の配偶者が「お母さんに出ていってもらって家を売りたい」と主張するケースがあります。また、残念ながら息子が先に亡くなり、家が息子の配偶者に相続されると、関係性がさらに薄くなります。
前妻の子供(異母・異父きょうだい)が相続人になるケースでは、面識が少ない他人に近い相手から「ここは私の家です」と言われてしまうことも、法律上起こりえます。
配偶者居住権の大きな強みは、登記できるという点です。
登記とは、法務局の公式な記録に「この不動産についてはこういう権利がある」と記録することです。不動産登記事項証明書(いわゆる登記簿謄本)に配偶者居住権が明記されることで、誰がどんな主張をしてきても「この証明書を見てください。私には住む権利があります」と法的に反論できます。口約束や家族間の取り決めではなく、公的な証明として権利が守られるのです。
この登記手続きは、司法書士が担当します。
3. 使い方によっては相続税対策になるから
これは税理士との連携が前提になりますが、配偶者居住権を活用すると相続税の節税効果が期待できる場合があります。
先ほどの4,000万円の自宅を例に、具体的な数字で見てみましょう。
- 息子が4,000万円の家を全額相続
- 4,000万円に対して税率10%の相続税 → 400万円
- 息子が所有権(2,000万円相当)を相続 → 相続税200万円
- お母さんが配偶者居住権(2,000万円相当)を相続 → 配偶者控除の適用で税額ゼロ
- お母さんが亡くなったとき、配偶者居住権は消滅する → 息子への課税なし
- 結果:息子が最終的に4,000万円の家を引き継ぐまでの税負担は200万円
ポイントは2つあります。
まず、配偶者控除という制度により、配偶者が相続する財産は1億6,000万円まで相続税がかかりません。そのため、お母さんが2,000万円の配偶者居住権を相続しても、税負担がほぼ生じないのです。
次に、配偶者居住権は、権利を持っている配偶者が亡くなると消滅するという性質があります。お母さんが亡くなっても、この権利は息子には相続されず、そのまま消えてなくなります。これにより、息子への追加の課税が発生しません。
結果として、息子は最終的に4,000万円の家を手に入れながら、相続税は半分の200万円で済む可能性があります。
ただし、相続税の計算は個々の状況によって大きく異なります。必ず税理士にシミュレーションを依頼してください。
実際に起きた「追い出し」のケース
「まさかそんなことが…」と思われる方も多いかもしれません。しかし、これは実際に起きていることです。
よくあるのは次のようなパターンです。お母さんが「どうせ私もそう長くはないし、先に息子名義にしておいた方が手続きが楽かも」と思い、生前に家の名義を息子に変えた。ところが、息子の配偶者が「古い家を売って引っ越したい」と主張し、「お母さん、出ていってほしい」という話になった。
息子本人は優しくても、家族関係の変化や、家を売って現金化したいという経済的な事情が重なると、こうした事態は珍しくありません。
- 配偶者居住権は「配偶者が自宅に住み続ける権利」を法的に保障する制度
- 「住む権利」と「所有する権利」を分けることで、住む場所と現金の両方を確保できる
- 登記することで、第三者にも法的に主張できる強い権利になる
- 配偶者の死亡とともに権利が消滅する性質が、相続税節税に活用できる場合がある
まとめ
本日の内容を整理します。
- 配偶者居住権とは、夫が亡くなった後も妻が自宅に住み続けられる権利を法的に保障する制度で、2020年の民法改正で創設された
- 「住む権利」と「所有する権利」を分けることで、居住場所を確保しながら老後の生活資金となる現金も相続できるようになる
- 登記によって権利を公的に証明できるため、他の相続人から「出ていけ」と言われた際にも法的に対抗できる
- 配偶者が亡くなると居住権が消滅する仕組みを活用することで、相続税の節税効果が期待できる場合がある(詳細は税理士に相談)
- 配偶者居住権の登記手続きは司法書士が担当し、税理士と連携しながら相続全体をまとめてサポートできる
「豪邸をもらっても、スーパーで食料品は買えない」。この言葉が、配偶者居住権の本質を表しています。住む場所と生活資金、どちらも守れる選択肢があることを、ぜひ知っておいてください。
ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にレスター司法書士法人にご相談ください。
本記事の内容は、YouTube動画『【実話】もしも夫が亡くなったら…自宅を守り抜く「配偶者居住権」の活用術』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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