皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
「親の預金は自分がきちんと管理している」そう自信を持っている方ほど、思わぬトラブルに巻き込まれるケースが増えています。
献身的に親の介護をしながら預金を管理していたのに、兄弟から「使い込んだ」と訴えられてしまった。
スーパーでの買い物を一緒に精算していたら、10年後に600万円の返還を求められた。
あるいは税務調査が入り、脱税扱いされそうになった——こうした深刻なトラブルが、実際に起きています。
「家族のことだから、多少ルーズでも大丈夫だろう」と思われるかもしれません。しかし現実は違います。
数字だけを見た他の兄弟には、どれだけ誠実に管理していても「使い込み」に見えてしまうことがあります。
また税務署は、相続発生前後の預金の動きを最長10年分さかのぼって調査することができます。
本日は、実際にあったトラブル事例を3つ取り上げながら、「親の預金管理でやってはいけないこと」と「正しく身を守るための対策」を解説いたします。
これから親の介護や財産管理に携わる方、あるいはすでに管理を始めている方に、ぜひ最後までお読みいただきたい内容です。
大切な親の預金は、親自身の心の支えであり、老後の生活を支える唯一の財産でもあります。それを管理する立場になった方には、重大な責任が伴います。正しい知識を持って、ご家族全員が安心できる管理を目指しましょう。
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親の預金管理でトラブルになる3つのNG行為
親の預金管理をめぐるトラブルは、大きく3つのパターンに分類できます。以下の3つです。
- 記録・証拠なしに親のお金を使う
- 自分の生活費と親のお金を混同して使う
- 相続税対策として無計画に大きな引き出しを行う
それぞれ、実際の事例をもとに解説します。
1. 記録・証拠なしに親のお金を使う
あるご家族の事例です。お母さんの介護をしていた長女のさち子さんが、お母さんの通帳を管理していました。5年間で約500万円がなくなっており、兄弟から「使い込んだのではないか」と訴えられました。
調べてみると、なくなった500万円の大部分はパチンコ代でした。しかしさち子さんには、正当な理由がありました。認知症が始まり体力も衰えたお母さんにとって、パチンコが唯一の楽しみだったのです。「最後の人生、好きなように過ごしてほしい」という思いから、月5〜10万円をパチンコに使っていた。1年で約100万円、5年で約500万円になっていたわけです。
ポイントは、さち子さんが5年分の介護記録をきちんとつけていたことです。何時から何時までパチンコで遊んだかも記録されており、さらに病院代・薬代・スーパーでの買い物など、証明できる支出の領収書がすべて揃っていました。
パチンコの領収書は出てきません。しかしそれ以外の支出がすべて証明できており、記録とのつじつまも合う——そのことが決め手となり、「さち子さんは使い込んでいない」という判断につながりました。
介護記録だけでは証明として弱かった可能性があります。 記録に加えて、他の支出の領収書がすべて揃っていたからこそ、「この記録は本物だろう」と判断されたのです。記録と証拠のセットが、身を守る武器になります。
- 日々の介護記録をつける(日時・内容を具体的に)
- 病院代・薬代・食費など、証明できる領収書はすべて保管する
- 記録と領収書をセットで保管することで、信頼性が高まる
2. 自分の生活費と親のお金を混同して使う
お母さんの預金を管理していた長男が、スーパーへの買い物の際に自分の分とお母さんの分をまとめて会計していました。
月ベースでお母さんの分が7万円、自分の分が5万円——合計12万円を、お母さんの預金から引き出していたとします。自分の分の5万円は1年で60万円、10年で600万円になります。
他の兄弟は通帳を見て怒ります。「お母さんの預金から600万円も使い込んでいるじゃないか、返しなさい」——こうなってしまうと、いくら「自分の生活費も混じっていた」と説明しても、証明できません。
この問題を防ぐには、親のお金と自分のお金を最初から分けて管理することが不可欠です。
- スーパーでの買い物は「親の分」と「自分の分」を別会計にする(カードと現金を使い分けるなど)
- まとめて購入した場合は、月単位でお母さんの分を清算する記録を残す
- 通帳の情報を定期的に兄弟と共有する(インターネットバンキングのスクリーンショットを半年に1回・1年に1回送るなど)
特に大切なのが兄弟への情報共有です。10年後に「600万円使い込んだ」とトラブルになるより、毎月・毎年の動きを共有しておくことで、「介護しながら頑張ってくれているんだな」という理解が生まれやすくなります。数字だけを後から見せられるのと、リアルタイムで共有されるのとでは、受け取り方がまったく違います。
3. 相続税対策として無計画に大きな引き出しを行う
税務署は、亡くなった方の銀行口座について、最長10年分の通帳履歴を銀行に請求することができます。 死亡直前に大きな金額が引き出されていると、「このお金はどこへ行ったのか」と調査の対象になりやすくなります。
よくあるパターンとして、以下の2つがあります。
亡くなった時の財産を少なく見せようと、生前に大きな金額を引き出す。しかし10年分は調べられるため、「バレてしまう」ケースが多い。
管理している立場を利用して、自分だけ多めに引き出した。(これは不正であり、論外です)
大事なのは「引き出してはいけない」ということではありません。正当な理由があるなら、きちんと対策を取れば問題ありません。
たとえば、生前贈与として子供に渡すのであれば、贈与契約書を作成し、子供名義の口座に振り込む必要があります。
名義だけ変えて実質的には親が管理しているような「名義預金」は、税務上は親の財産として扱われます。また、節税のために不動産を購入した場合も、契約書や領収書をきちんと残しておかなければ「このお金はどこへ行ったのか」という調査対象になります。
- 大きな引き出しをした場合は、必ず使途の記録と証拠(契約書・領収書)を残す
- 生前贈与を行う際は、贈与契約書を作成し、正しく手続きを踏む
- 相続税が気になる場合は、税理士に相談し、正しい節税対策を立てる
- 死亡後の相続税申告で、正しく申告する
「税務調査が来ないようにしたい」という気持ちは分かりますが、正当な手続きを踏んでいれば調査が入っても説明できます。
大切なのは「来ないようにする」ことより「来ても説明できる状態にしておく」ことです。不安な方は、事前に税理士に相談したうえで計画的に進めることをお勧めいたします。
死亡直前の預金引き出しが招く3つの深刻な問題
「親が亡くなると口座が凍結されるから、その前に引き出しておきたい」というお話は、当事務所へのご相談でも非常によく耳にします。しかし、死亡前・死亡直前の預金引き出しは、後から次の3つの深刻な問題に発展するおそれがあります。
使途不明金として相続人同士のトラブルになる
まず押さえていただきたいのは、死亡前に引き出した現金も相続財産に含まれるということです。口座から現金に変わっただけで、親の財産であることに変わりはなく、遺産分割の対象から外れるわけではありません。
問題になるのは、使いみちを説明できない出金——いわゆる「使途不明金」です。亡くなる前後にまとまった金額が引き出されていると、他の相続人は通帳の履歴を見て「誰が何に使ったのか」と必ず確認します。説明も証拠もなければ、遺産分割協議や家庭裁判所の調停の場で「使い込んだのではないか」と追及され、話し合いが長期化する典型的な原因になります。
親御様の入院費や生活費のために引き出したのであれば、本記事の前半でご紹介したとおり、使途の記録と領収書をセットで残しておくことが身を守る唯一の方法です。
生前贈与・特別受益の扱いをめぐって揉める
「親の了解を得てもらったお金だ」という場合でも、安心はできません。親から特定の子への生前贈与は、遺産分割の際に特別受益(民法903条)として扱われ、贈与された分を相続財産に持ち戻して各自の取り分を計算し直すよう、他の相続人から主張される可能性があります。
また相続税の面でも、相続などで財産を取得した人が亡くなる前の一定期間(従来は相続開始前3年以内。令和6年以降の贈与から段階的に7年以内へ延長)に受けた贈与は、相続財産に加算して申告するのがルールです。「生前に渡しておけば相続税がかからない」というのは誤解です。
口頭だけの贈与は、後から「贈与だった」と証明することが非常に困難です。贈与として渡すのであれば、贈与契約書を作成し、受け取る側の名義の口座へ振り込むという基本を必ず守ってください。
相続税の申告漏れを税務署から指摘される
亡くなる直前に引き出した現金が亡くなった日に手元に残っていた場合、その現金は「手許現金」として相続財産に計上して申告する必要があります。「口座から出したお金だから申告しなくてよい」ということにはなりません。
先に述べたとおり、税務署は最長10年分の取引履歴を金融機関に照会できます。死亡直前の大口出金は税務調査で真っ先に確認されるポイントであり、計上漏れが見つかれば過少申告加算税や延滞税が課され、意図的な仮装・隠蔽と判断されれば最大40%の重加算税という重いペナルティの対象になります。
引き出したこと自体が悪いのではなく、「引き出したうえで正しく申告しない」ことが問題なのです。申告が必要かどうか迷う場合は、相続税に詳しい税理士への相談をお勧めいたします。
死亡後は口座凍結——遺産分割前でも使える「仮払い制度」
「凍結される前に引き出しておかなければ」と焦る方が多いのですが、実は死亡後であっても、正規の手続きで一定額を引き出せる制度があります。まずは凍結の仕組みから正しく理解しておきましょう。
口座はいつ凍結される?——死亡届で自動凍結されるわけではない
銀行口座が凍結されるのは、金融機関が口座名義人の死亡の事実を知った時点です。市区町村役場に死亡届を提出しても、その情報が自動的に金融機関へ通知されるわけではありません。家族からの連絡や新聞のお悔やみ欄などで金融機関が死亡を把握した時に、口座は凍結されます。
凍結を解除して払い戻しを受けるには、戸籍謄本や相続人全員の印鑑証明書など多くの書類が必要です。沖縄では県外にお住まいの相続人がいらっしゃるケースも多く、書類集めだけで数週間かかることも珍しくありません。死亡後の手続き全体の流れは、こちらの記事で確認できます。
▶ あわせて確認:親の死後14日以内にすべきこと完全ガイド
仮払い制度なら1金融機関あたり最大150万円まで単独で払い戻せる
葬儀費用や当面の生活費が必要な場合は、遺産分割前の相続預金の払戻し制度(民法909条の2・令和元年7月施行)を利用できます。他の相続人の同意がなくても、相続人が単独で次の金額まで払い戻しを受けられる制度です。
- 単独で払い戻せる額 = 相続開始時の預貯金残高 × 3分の1 × 払い戻しを受ける相続人の法定相続分
- ただし同一の金融機関からは合計150万円が上限
たとえば預金残高600万円・相続人が子2人の場合、1人が単独で払い戻せるのは「600万円×1/3×1/2=100万円」です。この上限を超える金額が必要な場合は、家庭裁判所に仮分割の仮処分を申し立てる方法があります。必要書類は金融機関ごとに異なりますので、事前に確認してから手続きしましょう。
「凍結前に慌てて引き出す」よりも、この制度を使って正規の手続きで払い戻すほうが、使途の記録が明確に残り、後のトラブル防止にもつながります。
死亡後の引き出しは相続放棄に影響することも
1つ注意していただきたいのが、相続放棄を検討している場合です。亡くなった方の預金を引き出して自分のために使ってしまうと、相続財産の処分(民法921条)にあたり単純承認とみなされて相続放棄ができなくなるおそれがあります。借金などマイナスの財産がある可能性が少しでもあるなら、預金には手を付けず、先に専門家へご相談ください。
▶ あわせて確認:司法書士が警告!相続放棄の罠と後悔しない手続き方法
正しい生前のお金の管理——凍結・トラブルに備える2つの制度
ここまで見てきたトラブルの多くは、「管理する権限があいまいなまま、家族が親の預金を動かしている」ことが根本原因です。親御様がお元気なうちに管理の仕組みを整えておけば、疑われることなく堂々と財産管理ができます。
任意後見制度——判断能力があるうちに「任せる契約」を結ぶ
任意後見制度は、親御様の判断能力がしっかりしているうちに、「将来判断能力が低下したら、この人に財産管理を任せる」という契約を公正証書で結んでおく制度です。実際に判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から契約の効力が生じます。
家庭裁判所の監督のもとで管理するため手間はかかりますが、「誰が・どの範囲で親のお金を管理するか」が法的に明確になるため、後から他のご兄弟に使い込みを疑われるリスクを大きく減らせます。
家族信託——口座凍結の影響を受けずに柔軟な管理ができる
家族信託は、親御様がお元気なうちに信託契約を結び、預金や不動産の管理を子に託す仕組みです。財産は信託専用の口座(信託口口座)で管理するため、親御様の判断能力が低下しても口座凍結の影響を受けず、生活費や介護費用の支払いを続けられるのが大きな特長です。
ただし、家族信託は契約行為であるため、認知症が進んで判断能力を失った後では原則として利用できません。「元気なうちの備え」が何より重要です。制度の詳しい仕組みとタイミングは、こちらの記事で解説しています。
▶ あわせて確認:家族信託は認知症になってからでは遅い?
死亡前の預金引き出しに関するよくある質問
親が亡くなる直前に、葬儀費用を引き出しておいても問題ありませんか?
物理的には可能ですが、引き出した現金も相続財産として扱われます。親御様ご本人の了解を得ること、他の相続人に事前に共有しておくこと、葬儀費用の領収書を必ず保管することの3点を守れば、大きなトラブルにはなりにくいでしょう。なお、死亡後でも仮払い制度で葬儀費用程度の払い戻しは可能ですので、慌てて引き出す必要はありません。
死亡直前に引き出した現金は、申告しなければ税務署に分かりませんか?
分かります。税務署は金融機関に対して最長10年分の取引履歴を照会でき、死亡直前の大口出金は税務調査で最も確認されやすいポイントです。手元に残っている現金は「手許現金」として相続財産に計上して申告してください。
死亡届を役所に出すと、口座はすぐ凍結されますか?
いいえ。死亡届の情報が金融機関に自動で通知されることはなく、凍結されるのは金融機関が死亡の事実を知った時点です。ただし、凍結を避けるために死亡を隠して引き出すことは、後の相続人間トラブルや申告漏れの原因になるためお勧めできません。
仮払い制度では、いくらまで引き出せますか?
「相続開始時の預貯金残高×3分の1×ご自身の法定相続分」まで、他の相続人の同意なく単独で払い戻せます。ただし同一の金融機関からは合計150万円が上限です。複数の銀行に口座がある場合は、それぞれの金融機関ごとに計算します。
他の兄弟が親の預金を勝手に引き出していたようです。どうすればよいですか?
相続開始後であれば、相続人は単独で金融機関に取引履歴の開示を請求できます。まず履歴を取り寄せて出金の事実を確認し、引き出した相続人に使途の説明を求めましょう。話し合いで解決しない場合は法的手続きが必要になることもあります。どこから手を付けるべきか迷われたら、無料相談をご利用ください。
まとめ
今回は、親の預金管理で実際にあったトラブル事例を3つご紹介しました。要点を整理いたします。
- 使途の記録と領収書はセットで保管する:介護記録だけでは不十分。病院代・食費など証明できる支出の領収書と合わせて保管することで、使い込みの疑いを晴らせる
- 自分のお金と親のお金は必ず分けて管理する:スーパーの買い物程度でも、10年単位では数百万円の差になる。会計を分けるか、定期的に精算・記録する
- 兄弟への情報共有を定期的に行う:通帳の動きをリアルタイムで共有することで、後からのトラブルを予防できる
- 大きな引き出しをする際は専門家に相談し、必ず証拠を残す:税務署は10年分をさかのぼれる。正当な手続きを踏み、書類を整えておくことが大切
- 相続税対策は税理士に相談する:無計画な対策はかえって税務調査のリスクを高める。正しい節税方法を専門家と一緒に考えることをお勧めする
親の預金は、老後の生活を支える大切な財産であり、ご本人の心の安心でもあります。それを管理する立場には、重大な責任が伴います。「家族だから大丈夫」という気持ちで緩やかに考えていると、思わぬトラブルに発展することがあります。
ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にレスター司法書士法人にご相談ください。
本記事の内容は、YouTube動画『「知らなかったでは遅い」親の預金の引き出し方NG行為3選』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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