皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
「親が最近、物忘れが増えてきた。認知症になる前に家族信託を考えた方がいいのだろうか」「もう軽い認知症と診断されてしまったが、今からでは手遅れなのか」――このようなご相談が、当事務所にも年々増えております。
家族信託は、親が認知症になった後の資産凍結を防ぐ有効な備えですが、契約できるのは原則として「判断能力があるうち」だけです。一方で、「認知症の診断=もう絶対に無理」というわけでもなく、程度によっては契約できるケースもあります。この線引きを正しく知らないまま迷っているうちに、時間だけが過ぎてしまうご家族を、私は何度も見てまいりました。
本日は、家族信託と認知症の関係について、契約できる判断能力のライン、発症後に起こる資産凍結の実際、よく比較される任意後見制度との違い、そして親が元気なうちに始める家族会議の進め方まで、司法書士の実務の視点から解説いたします。
レスター司法書士法人の公式LINEでは、相続に役立つチェックリストを無料プレゼントしています!
ほかにも、LINE限定の無料Zoom相談もご用意しておりますので、この機会にぜひご登録ください。
家族信託は認知症になる「前」にしか組めないのが原則
結論から申し上げますと、家族信託の契約は、本人(財産を託す親)に判断能力があるうちにしか結べないのが原則です。
契約には「判断能力」が必要だから
家族信託は、親(委託者)が子など(受託者)に財産の管理を託す「契約」です。契約である以上、本人が「自分の財産を、誰に、何のために託すのか」を理解し、判断できる能力(意思能力)が必要です。意思能力を欠いた状態で結んだ契約は、法律上無効とされます。
認知症が進行して判断能力が失われてしまうと、家族信託だけでなく、遺言書の作成や生前贈与、任意後見契約など、生前対策のほとんどが選べなくなります。認知症は誰にでも起こり得ます。厚生労働省の研究班の推計では、認知症の高齢者は2030年に520万人を超えると見込まれており(出典:厚生労働省 認知症施策)、「うちの親はまだ大丈夫」と言い切れるご家庭の方が少ないのが実情です。
軽度の認知症なら契約できるケースもある
一方で、「認知症と診断されたら、その瞬間から家族信託は一切できない」というわけではありません。
ポイントは、医学的な診断名ではなく、契約内容を理解できる判断能力が残っているかどうかです。家族信託の契約書は、後日のトラブルを防ぐため公正証書で作成するのが一般的ですが、その際、公証人が本人と面談し、氏名・生年月日などの基本事項に加えて「どの財産を」「誰に託し」「亡くなった後は誰に引き継ぐのか」といった契約の核心部分を本人の言葉で確認します(参考:日本公証人連合会)。
軽度の認知症で、調子のよい時間帯であれば受け答えがしっかりしている方の場合、公証人の意思確認を経て契約に至るケースは実務上あります。ただし、契約できるかどうかは公証人や関与する専門家が個別に判断するものであり、「軽度なら必ずできる」とお約束できるものではありません。診断の有無にかかわらず、気になった時点で早めに専門家へご相談いただくことが何より重要です。
迷っている間にも判断能力は低下していく
実務でもっとも多い後悔は、「検討はしていたが、決めきれないうちに症状が進んでしまった」というものです。認知症は日によって調子の波があり、ゆっくりと、しかし確実に進行します。ご家族の間で「そのうち考えよう」と先送りしている間に、選べる手段が一つずつ減っていく――これが認知症対策の難しさです。
認知症発症後に起こる「資産凍結」の実際
では、何も対策をしないまま認知症が進行すると、実際に何が起こるのでしょうか。
預金口座からお金が引き出せなくなる
金融機関が本人の判断能力の低下を把握すると、本人の財産保護のため、口座の取引が制限されるのが一般的です。いわゆる「口座凍結」です。こうなると、たとえ配偶者やお子様であっても、原則として預金の引き出しや定期預金の解約はできません。親の介護費用や施設入居費を親自身の預金から支払いたくても、家族が代わりに動かせないのです。
なお、「凍結される前に家族が引き出しておけばよいのでは」とお考えになる方もいらっしゃいますが、安易な引き出しは後々の相続トラブルや税務上の問題につながる危険な行為です。詳しくは「相続前の親の預金は引き出しNG!トラブル行為3選と司法書士が教える対策」で解説しておりますので、あわせてご覧ください。
不動産の売却・賃貸・修繕ができなくなる
不動産の売買契約も、本人の意思能力が前提です。判断能力を失った親名義の自宅や土地は、家族の一存では売却できません。「施設の入居費用に充てるため実家を売りたい」「老朽化したアパートを建て替えたい」と思っても、名義人本人が契約できない以上、手続きは止まってしまいます。
発症後に残された選択肢は「法定後見」のみ
判断能力が失われた後にとれる手段は、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選んでもらう「法定後見制度」がほぼ唯一です(参考:裁判所 後見ポータルサイト)。法定後見は本人を守るための大切な制度ですが、誰が後見人になるかは家庭裁判所が決めるため司法書士や弁護士などの専門職が選ばれることも多く、財産は「本人のために維持する」ことが基本となるため、相続対策や資産の積極的な活用は原則できません。
だからこそ、選択肢が残っている「発症前」に、家族信託を含めた備えを検討しておくことに大きな意味があるのです。
法定後見にかかる費用の全体像は「成年後見の費用はいくら?申立時の実費と毎月の報酬」で、家族が後見人に選ばれるための条件は「成年後見人になれる人とは?家族が選ばれるための条件とポイント」でそれぞれ解説しています。
家族信託と任意後見の違いを比較表で解説
認知症への事前の備えとして、家族信託とよく比較されるのが「任意後見制度」です。任意後見は、本人が元気なうちに「将来判断能力が低下したら、この人に後見人になってもらう」とあらかじめ公正証書で契約しておく制度です(参考:法務省 成年後見制度・任意後見制度)。
どちらも「元気なうちに契約しておく」点は同じですが、仕組みは大きく異なります。主な違いを表にまとめました。
| 家族信託 | 任意後見 | |
|---|---|---|
| 効力の開始時期 | 契約と同時に開始できる(発症を待たない) | 判断能力低下後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してから開始 |
| 監督する人 | 必須の監督者はいない(信託監督人を任意で置ける) | 任意後見監督人が必ず就き、家庭裁判所へ報告 |
| 財産運用の柔軟性 | 契約で定めた範囲で売却・建替え・運用など柔軟に可能 | 本人の財産の維持・保全が中心。積極的な運用や資産の組み替えは困難 |
| 費用の構造 | 組成時の初期費用が中心。家族が受託者なら継続報酬は原則不要 | 初期費用は比較的少額だが、開始後は監督人への報酬が本人が亡くなるまで継続 |
| 身上監護(介護・入院等の契約) | できない(財産管理の制度のため) | できる(契約で定めた範囲) |
財産の管理・活用を重視するなら家族信託
家族信託の強みは、契約したその日から、元気なうちは親の意向を確認しながら、判断能力が低下した後も切れ目なく、受託者が財産を管理・活用し続けられることです。「将来、施設に入るときは実家を売却して費用に充てる」といった柔軟な対応も、契約に定めておけば受託者の判断で実行できます。監督人への継続報酬が発生しない点も、長期間の管理を前提とするご家庭には大きな違いになります。
身上監護まで備えるなら任意後見
一方、家族信託はあくまで財産管理の仕組みであり、介護サービスの契約や施設への入所契約といった「身上監護」は範囲外です。この領域をカバーできるのは後見制度の方です。任意後見であれば、信頼する家族を後見人候補として自分で選んでおけます。なお、成年後見制度を見直す改正法が2026年6月17日に成立しています(施行日は未定)。改正の中身は「成年後見制度の改正で何が変わるかを解説した記事」で整理していますので、今後制度が変わっていく点も押さえておくとよいでしょう。
「財産管理は信託、身上監護は任意後見」の併用という選択肢
家族信託と任意後見は、どちらか一方しか選べないものではありません。実務では、両者を組み合わせる設計も有力な選択肢です。
- 自宅や預金などの財産管理 → 家族信託で子に託し、売却や活用も柔軟にできるようにしておく
- 介護契約・施設入所などの身上監護 → 任意後見契約で備えておく
このように役割分担をしておくと、財産面は信託の柔軟さを活かしつつ、生活面の契約は後見でカバーでき、お互いの弱点を補い合えます。ただし、信託に入れる財産の範囲や後見との役割分担は、ご家族の構成・財産の内容・親御様の意向によって最適解が変わります。どの組み合わせがよいかは、個別事情を踏まえて専門家と一緒に設計されることをお勧めいたします。
親が元気なうちに始める「家族会議」の進め方
家族信託は、親と子だけでなく、兄弟姉妹を含めた家族全体の理解があってこそうまく機能します。とはいえ、「親のお金の話」はなかなか切り出しにくいものです。実務の経験から、進め方のコツをご紹介します。
切り出し方は「親を守るため」の視点で
「財産をどう分けるか」から入ると、親御様は「財産を狙われている」と感じて心を閉ざしてしまいがちです。そうではなく、「もしお父さんが入院したら、入院費はどの口座から払えばいい?」「実家はこの先どうしたい?」といった、親自身の生活を守るための質問から始めるのが円滑です。テレビの認知症特集や、知人の相続の話題など、身近なきっかけを入り口にするのも自然です。
話し合っておきたい内容
- 財産の全体像(預金・不動産・保険など、どこに何があるか)
- 親の希望(自宅に住み続けたいか、施設も視野に入れるか、実家を残したいか)
- 誰が財産管理を担うか(受託者の候補と、他の兄弟姉妹の納得)
- 信託以外の備え(遺言書・任意後見など)と組み合わせるか
特に③は重要です。受託者にならなかった兄弟姉妹が事情を知らされていないと、後になって「勝手に親の財産を管理している」という誤解や争いの火種になりかねません。全員が同じ説明を聞ける場を作ることが、家族信託を成功させる最大のポイントです。なお、家族信託は遺言書と組み合わせて設計することも多くあります。遺言書の作成費用や手順については「遺言書の作成費用はいくら?自筆証書と公正証書の手順・相場を司法書士が解説」をご覧ください。
県外在住の子が沖縄の親の財産を管理するケース
沖縄では、お子様が進学や就職を機に県外や海外へ移り住み、親御様だけが沖縄に残っているというご家庭が非常に多くいらっしゃいます。当事務所にも、「東京に住んでいるが、那覇の実家に一人で暮らす母が心配」というご相談が数多く寄せられます。
離れて暮らしていると、親の判断能力の変化に気づきにくく、気づいたときには対策が難しくなっているケースが少なくありません。また、沖縄特有の事情として、軍用地を所有しているご家庭では、借地料の受け取りや管理、将来の売却判断が発生します。親名義のまま資産凍結が起これば、これらもすべて止まってしまいます。家族信託を組んでおけば、県外在住のお子様が受託者として、帰省しなくても信託口口座の管理や賃料の受け取りを続けられ、必要になれば契約に定めた範囲で不動産の処分も進められます。
「帰省のタイミングでしか話し合いができない」という方は、お盆や年末年始の帰省にあわせて家族会議と専門家への相談を設定するのが現実的です。当事務所では、県外にお住まいのご家族とのオンラインでのご相談にも対応しております。
よくある質問
認知症の診断を受けていたら、家族信託は絶対にできませんか?
診断名だけで一律に決まるものではありません。重要なのは、契約時点で「財産を誰に、何のために託すのか」を本人が理解・判断できるかどうかです。軽度の認知症であれば、公証人の意思確認を経て契約できるケースも実務上あります。
ただし、可否は公証人や専門家が個別に判断するもので、症状は進行していきます。「診断されたから無理だろう」と自己判断で諦める前に、できるだけ早くご相談ください。
家族信託の費用はどのくらいかかりますか?
実費としては、契約書を公正証書にする場合の公証人手数料(信託財産の額に応じて決まります。手数料の基準は日本公証人連合会の手数料案内をご参照ください)と、不動産を信託する場合の信託登記の登録免許税(原則として建物は固定資産税評価額の0.4%、土地は軽減措置により0.3%。税率は国税庁タックスアンサーNo.7191参照)がかかります。
これに加えて、契約設計を依頼する専門家への報酬がかかります。報酬は信託する財産の内容や設計の複雑さ、事務所によって異なりますので、見積もりの段階で内訳をご確認ください。当事務所でも、初回の無料相談でご事情をうかがったうえで、費用の目安をご案内しております。
家族信託と任意後見は、結局どちらを選ぶべきですか?
「財産の管理・活用を柔軟に続けたい」なら家族信託、「介護や入院など生活面の契約への備えを重視する」なら任意後見が向いており、両方を組み合わせる設計も可能です。
ご家庭の財産構成(不動産の有無・軍用地の有無など)や家族関係によって最適な組み合わせは変わりますので、比較検討の段階で専門家にご相談いただくのが近道です。
家族信託をすれば遺言書は不要になりますか?
信託した財産については、契約の中で「本人が亡くなった後に誰へ引き継ぐか」を定められるため、遺言と同様の機能を持たせることができます。
ただし、信託に入れなかった財産(年金が入る口座の預金など)には信託の効力が及ばないため、遺言書を併用して全体をカバーする設計が一般的です。相続全体の設計として、信託と遺言をセットで検討されることをお勧めします。
まとめ
家族信託と認知症の関係について解説してまいりました。要点を整理いたします。
- 家族信託は判断能力があるうちにしか契約できないのが原則。認知症が進行すると、信託だけでなく生前対策のほとんどが選べなくなる
- 軽度の認知症なら契約できるケースもある。可否は診断名でなく、公証人らによる個別の意思確認で判断される。諦める前に早めの相談を
- 発症後は預金の引き出しも不動産の売却もできない「資産凍結」が現実に起こる。残される選択肢は法定後見のみ
- 任意後見との違いは「開始時期・監督人・柔軟性・費用構造」。財産管理は信託、身上監護は任意後見という併用設計も有力
- 県外在住のお子様が沖縄の親御様の財産を管理する備えとしても有効。帰省のタイミングでの家族会議から始めるのが現実的
認知症対策は、「まだ早いかな」と感じるくらいの時期がちょうどよいタイミングです。逆に「そろそろ心配」と感じたときは、すでに残された時間が限られているかもしれません。
レスター司法書士法人では、窓口を一つにしてワンストップで、家族信託の設計から遺言書・任意後見との組み合わせまで対応しております。初回のご相談は無料で承っておりますので、ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Contact
まずは、話してみてください。
初回相談は無料です。どんな小さなことでもお気軽にお声がけください。
Quick Call
098-987-1628Office Hours
平日 8:30 – 17:30


コメント