皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
「会社で持っているビルや土地を売りたいが、税金の負担が大きすぎる」「不動産を保有したまま会社を畳むべきか、それとも会社ごと譲るべきか」。不動産を保有する会社の経営者様から、このようなご相談をいただくことが増えています。
そのような場面で選択肢に挙がるのが「不動産M&A」です。不動産そのものを売買するのではなく、不動産を保有する会社を株式譲渡などで丸ごと引き継ぐ方法で、通常の不動産売買とは税金のかかり方も手続きも大きく異なります。
一方で、「節税になる」という良い面ばかりが強調されがちですが、簿外債務を引き継ぐリスクなど、事前に知っておくべき注意点も少なくありません。
本日は、不動産M&Aとは何か、通常の不動産売買との違い、スキームの種類、メリット・デメリット、そして司法書士をはじめとする専門家の役割分担について解説いたします。
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不動産M&Aとは?通常の不動産売買との違い
不動産M&A=不動産を保有する「会社」を株式譲渡で取得するスキーム
不動産M&Aとは、不動産の取得を主な目的として、その不動産を保有している会社を買収するM&Aのことです。中心となる手法は株式譲渡で、買い手は売り手の株主から株式を買い取ることで、会社ごと不動産を引き継ぎます。
通常の不動産売買では、売買の対象は「不動産そのもの」です。これに対して不動産M&Aでは、売買の対象は「会社の株式」であり、不動産の所有者は買収の前後を通じて同じ会社のまま変わりません。変わるのは、その会社のオーナー(株主)です。
この「不動産の名義が動かない」という点が、税金面・手続き面の違いを生む出発点になります。
違い①:不動産取得税・登録免許税(流通税)の負担
通常の不動産売買で買主に生じる主な税負担として、次のようなものがあります。
- 不動産取得税:不動産を取得した際に都道府県が課税する税金(総務省|不動産取得税)
- 登録免許税:所有権移転登記の際に課される税金(国税庁タックスアンサー No.7191 登録免許税の税額表)
これらは不動産の名義が移転することに伴って発生する、いわゆる「流通税」です。
一方、株式譲渡による不動産M&Aでは、先ほど述べたとおり不動産の所有者(会社)は変わらないため、不動産の所有権移転登記が発生せず、不動産取得税や所有権移転に伴う登録免許税は原則としてかかりません。保有不動産の規模が大きいほど、この差は無視できない金額になります。
ただし、税額は物件の評価額や適用される特例により大きく異なりますので、具体的な試算は税理士や都道府県税事務所にご確認ください。
違い②:譲渡する側(売り手)の税務の枠組み
売り手側の税金のかかり方も、両者で枠組みが異なります。
会社が不動産を売却してから会社を清算する場合、まず不動産の売却益に対して法人段階の課税があり、その後、残った財産を株主に分配する段階でも株主に課税が生じ得ます。つまり、二段階で税負担が発生する構造が原則です。
これに対して株式譲渡による不動産M&Aでは、売り手であるオーナー株主に生じるのは株式の譲渡益に対する課税です。個人株主の上場株式等以外の株式の譲渡益は、原則として申告分離課税の対象とされています(国税庁タックスアンサー No.1463 株式等を譲渡したときの課税)。
もっとも、実際にどちらが有利になるかは、不動産の含み益の大きさ、会社の繰越欠損金の有無、株主構成など個別事情によって大きく変わります。税額の計算や有利不利の判定は税理士の業務領域ですので、当事務所でご相談を受けた場合も、税務については提携税理士と連携しながら進める形になります。
不動産M&Aの主なスキーム
株式譲渡スキーム(基本形)
もっとも基本的なスキームは、オーナー株主が保有株式のすべてを買い手に譲渡する株式譲渡です。手順の骨格は次のとおりです。
- 秘密保持契約を結び、基本条件を交渉する
- 買い手がデューデリジェンス(買収監査)を実施する
- 株式譲渡契約を締結する
- 譲渡承認手続き・株主名簿の書き換え・代金決済(クロージング)を行う
- 役員変更などの登記を申請する
中小企業の多くは定款で株式の譲渡制限を設けている「非公開会社」ですので、株主総会や取締役会による譲渡承認の手続きを正しく踏むことが重要です。M&A全体の流れは、こちらの記事で詳しく解説しています。

会社分割を組み合わせるスキーム
会社の中に不動産事業とそれ以外の事業が混在している場合には、会社分割で不動産部分(または事業部分)を切り出したうえで、株式を譲渡するスキームが使われることがあります。
ただし、会社分割を使うスキームは税制適格要件などの税務上の論点が多く、組み方によっては税務調査で租税回避行為と判断されるリスクも指摘されています。会社分割型の不動産M&Aを検討する場合は、必ず事前に税理士を交えてスキーム全体の検証を行ってください。
不動産M&Aのメリット
売り手・買い手それぞれの主なメリットを整理します。
売り手側のメリット
- 税負担の枠組みが変わる:不動産売却+会社清算の二段階課税と比べて、株式譲渡益への課税に一本化される(有利かどうかは個別事情によります)
- 廃業コストを抑えられる:会社を清算する場合に必要な解散・清算手続きや、建物の取り壊し・原状回復などの負担を避けられる
- 従業員の雇用や取引関係を引き継げる:会社が存続するため、雇用契約や賃貸借契約はそのまま継続する
- 後継者不在の解決策になる:不動産賃貸業などで後継者がいない場合の事業承継の選択肢になる
買い手側のメリット
- 流通税の負担を抑えられる:不動産取得税や所有権移転登記の登録免許税が原則として発生しない
- 市場に出回らない物件を取得できる:好立地の収益物件など、通常の売買市場に出てこない不動産にアクセスできる
- 賃借人との契約や管理体制ごと引き継げる:収益不動産の場合、賃貸借契約や管理ノウハウを一体で取得できる
不動産M&Aのデメリット・リスク
不動産M&Aは良いことばかりではありません。むしろ、通常の不動産売買にはないリスクを引き受ける取引だという理解が出発点になります。
簿外債務・偶発債務を引き継ぐリスク
株式譲渡では、会社の資産だけでなく負債や契約関係もすべて丸ごと引き継ぎます。帳簿に載っていない保証債務(簿外債務)、未払いの残業代、将来発生し得る損害賠償(偶発債務)なども例外ではありません。
「不動産が欲しくて会社を買ったら、想定外の債務までついてきた」という事態は、不動産M&Aでもっとも警戒すべきリスクです。
デューデリジェンス(DD)が不可欠
このリスクに対する備えが、契約前のデューデリジェンス(買収監査)です。財務は公認会計士・税理士、法務は弁護士、不動産の権利関係や登記の状態は司法書士というように、分野ごとの専門家が会社の中身を調査します。
調査には相応の費用と期間がかかりますが、不動産M&Aは取引金額が大きくなりやすいだけに、DDを省略することはおすすめできません。また、株式譲渡契約書には、売り手が会社の状態を保証する「表明保証」条項などを適切に盛り込む必要があります。契約書のリスクについては、こちらの記事もご覧ください。

税務上の否認リスク・その他の注意点
このほか、次のような注意点があります。
- 株式の譲渡が実質的に短期所有土地の譲渡とみなされるケースなど、税務上不利に扱われる場合がある
- 節税だけを目的とした不自然なスキームは、租税回避行為として否認されるリスクがある
- 買い手を探すのが難しく、通常の不動産売買より成約までの期間が長くなりやすい
いずれも個別性が高い論点ですので、スキームの税務面は必ず税理士に、契約や紛争リスクは弁護士に確認しながら進めることが大切です。
沖縄で不動産M&Aが選択肢になる場面
沖縄には、不動産M&Aが選択肢として浮かび上がりやすい土壌があります。
- 軍用地を保有する法人:沖縄特有の資産である軍用地は安定収益資産として法人で保有されているケースがあり、会社ごと承継するかどうかが論点になります
- 観光関連の不動産:ホテル・民泊施設・飲食店舗など、収益不動産を保有する会社の後継者不在問題が増えています
- 那覇市中心部の収益物件:市場に出回りにくい好立地物件が同族会社に保有されていることが少なくありません
後継者がいないまま不動産保有会社を放置すると、株主の相続が発生するたびに株式が分散し、意思決定ができない「塩漬け会社」になってしまうおそれがあります。そうなる前に、会社と不動産の出口を設計しておくことが重要です。沖縄の事業承継の全体像は、こちらの記事で解説しています。

当事務所では、不動産M&Aをテーマとしたセミナーを開催した実績があり、沖縄県内の経営者・不動産オーナーの皆様に、会社ごと不動産を承継する選択肢についてお伝えしてまいりました。当時のセミナー資料はこちら(PDF)からご覧いただけます。
不動産M&Aにおける司法書士の役割と専門家の分担
司法書士が担う手続き
不動産M&Aでは不動産の所有権移転登記こそ発生しませんが、会社に関する登記や法律手続きは数多く発生します。司法書士は主に次の場面で関与します。
- 役員変更登記:買収後に取締役・監査役が交代した場合の変更登記
- 本店移転・商号変更などの登記:買収後に本店所在地や会社名を変更する場合
- 株式譲渡の手続き支援:譲渡承認に関する株主総会・取締役会の議事録作成、株主名簿の書き換えなど会社法上の手続きのサポート
- 登記情報からの調査:対象会社の登記事項や、保有不動産の権利関係(抵当権などの担保の有無)の確認
会社の登記手続きは、法務局(沖縄県内であれば那覇地方法務局)への申請が必要です(法務局|商業・法人登記の申請手続)。なお、非公開会社の株主が誰であるかは登記事項ではないため、株式譲渡そのものの登記は発生しませんが、その分、株主名簿や議事録といった社内の法的書類を正確に整備しておくことが後日の紛争予防につながります。
税務は税理士、法務DD・紛争対応は弁護士
専門家の役割分担を整理すると、次のようになります。
- 税理士:譲渡益課税の試算、スキームの税務検証、税務申告
- 弁護士:法務デューデリジェンス、契約交渉、紛争が生じた場合の対応
- 公認会計士:財務デューデリジェンス、企業価値の評価
- 司法書士:商業登記・不動産登記、会社法上の手続き支援、権利関係の調査
不動産M&Aは、どれか一つの専門分野だけで完結する取引ではありません。当事務所では、窓口を一つにして提携する税理士・弁護士と連携しながら進める体制を取っていますので、「まず誰に相談すればよいか分からない」という段階からご相談いただけます。
なお、司法書士報酬を含む専門家費用は、対象会社の規模や手続きの内容によって事務所ごとに異なります。当事務所では初回相談時に、必要な手続きの全体像と費用の見通しをご説明しております。
よくある質問
不動産M&Aはどのような会社に向いていますか?
典型的なのは、収益不動産を保有する会社で後継者がいないケースです。不動産賃貸業を営む同族会社、遊休不動産を抱えたまま事業を縮小している会社、軍用地などの安定資産を法人で保有しているケースなどが挙げられます。
一方、不動産以外の事業や資産・負債が複雑に絡んでいる会社では、スキームの設計が難しくなります。まずは会社の資産・負債の全体像を整理することが第一歩です。
不動産M&Aの税金はどのくらいかかりますか?
株式譲渡の場合、売り手の個人株主には株式の譲渡益に対する申告分離課税が原則として適用されますが、実際の税額は取得費や個別の事情によって変わります。
通常の不動産売却と比べてどちらが有利かは一概には言えず、試算には専門的な検討が必要です。制度の概要は国税庁のタックスアンサーで確認できますが、具体的な税額の計算・申告は税理士にご相談ください。
不動産M&Aにはどのくらいの期間がかかりますか?
相手探しから始める場合、半年から1年以上かかることも珍しくありません。買い手が既に決まっている場合でも、デューデリジェンスと契約交渉に数ヶ月を要するのが一般的です。
通常の不動産売買より時間がかかる取引ですので、事業承継対策として検討する場合は、早めに準備を始めることをおすすめいたします。
個人名義の不動産でも不動産M&Aはできますか?
不動産M&Aは「不動産を保有する会社」の株式を売買するスキームですので、個人名義の不動産そのものは対象になりません。個人所有の不動産を売却する場合は、通常の不動産売買として進めることになります。
個人名義か法人名義かで、税金も手続きもまったく異なりますので、所有形態の確認から始めましょう。
司法書士には何を相談できますか?
対象会社の登記事項や不動産の権利関係の調査、株式譲渡に伴う会社法上の手続き、役員変更・本店移転などの登記手続きについてご相談いただけます。
また、「そもそも自社のケースで不動産M&Aが選択肢になるのか」という入口の交通整理も承っています。税務や紛争性のあるご相談は、提携する税理士・弁護士と連携して対応いたします。
まとめ
不動産M&Aについて解説してまいりました。要点を整理いたします。
- 不動産M&Aとは、不動産を保有する会社を株式譲渡などで丸ごと取得するスキーム。不動産の名義は動かず、会社のオーナーが変わる
- 通常の不動産売買と異なり、不動産取得税・所有権移転の登録免許税が原則かからない。売り手の課税も株式譲渡益への課税に一本化される
- 簿外債務・偶発債務を丸ごと引き継ぐリスクがあり、デューデリジェンスは省略できない
- 節税だけを目的としたスキームは税務上否認されるリスクがある。税務の検証は必ず税理士に依頼する
- 司法書士は登記・会社法手続き・権利関係調査を担い、税理士・弁護士・会計士とのチームで進める取引
不動産M&Aは、「不動産の売買」と「会社の承継」の両方の性質を持つ、専門性の高い取引です。だからこそ、最初の相談窓口で全体の交通整理をすることが成否を分けます。
レスター司法書士法人では、窓口を一つにしてワンストップで対応しております。初回のご相談は無料で承っておりますので、ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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