皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
「任意後見契約を結ぶことは決めた。でも、公証役場に何を持って行き、契約書に何を書けばよいのかが分からない」。任意後見を調べ進めた方が次につまずくのは、この実務の部分ではないでしょうか。
任意後見契約は、公正証書で作らなければ効力を持ちません。そして、公正証書に書かれた代理権の範囲が、将来その方のために動ける範囲のすべてになります。作成当日に慌てて決めた一行が、何年も後の手続きを左右することもあるのです。
本日は、任意後見契約の公正証書について、作成までの段取り、必要書類、代理権目録の決め方、そして契約後から発効までの流れを、公的な資料に沿って解説いたします。
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任意後見契約は公正証書でなければ成立しません
結論から申し上げますと、任意後見契約は公正証書によって結ぶことが法律上の要件です。ご家族の間で作った契約書や、署名押印しただけの私文書では、任意後見契約としての効力は生じません。
日本公証人連合会の任意後見契約のQ&Aでは、公証人が本人の意思と判断能力を確認し、契約の内容が法律に適合していることを確認する役割を担うと説明されています。後から「本当に本人の意思だったのか」が問題になりにくいのは、この仕組みがあるからです。
なお、制度そのものの全体像や法定後見との違いについては、任意後見制度とは?法定後見との違いと任意後見人になれる人・費用を司法書士が解説で整理しております。本記事では、公正証書を作る実務に絞ってお話しします。
公正証書ができるまでの5つのステップ
任意後見契約の公正証書は、一般的に次の順序で進みます。
- 任せる人(受任者)と任せる範囲を決める
- 公証役場に連絡し、相談と日程の予約をする
- 本人と受任者の必要書類をそろえる
- 公証人が作成した文案を確認し、修正して確定させる
- 作成当日、本人と受任者が公証人の面前で契約し、その後に登記がされる
時間がかかるのは、1番目の「任せる範囲を決める」工程です。ここが固まっていれば、公証役場とのやり取りは短く済みます。逆に、ここを詰めないまま公証役場へ行くと、文案の修正で何度も往復することになります。
作成当日にすること
当日は、原則として本人と受任者がそろって公証人の面前に出向き、公証人から内容の説明と確認を受けたうえで契約します。2025年10月1日の改正公証人法の施行により、法務大臣が指定する公証人が作成する公正証書は、原則として電子データ(PDF)で作成され、当事者も電子的に署名する方式に変わりました(法務省「公正証書の作成に係る一連の手続のデジタル化について」)。
契約が終わると、公証人が法務局に登記を嘱託します。本人や受任者が自分で法務局に登記を申請する必要はありません。この登記によって、将来、任意後見人が金融機関などに「登記事項証明書」を示して代理権を証明できるようになります。
任意後見契約の公正証書に必要な書類
日本公証人連合会の「任意後見契約を結ぶには、どんな書類等が必要ですか?」によると、必要書類は次のとおりです。
| 対象 | 必要書類 |
|---|---|
| 本人 | 「印鑑登録証明書+実印」または「運転免許証・マイナンバーカード等の顔写真付き公的身分証明書+認印または実印」、戸籍謄本または抄本、住民票 |
| 受任者(個人) | 「印鑑登録証明書+実印」または「顔写真付き公的身分証明書+認印または実印」、住民票 |
| 受任者(法人) | 代表者の印鑑証明書+代表者印、資格証明書 |
印鑑登録証明書と、法人の印鑑証明書・資格証明書は、発行後3か月以内のものに限られます。日程が延びたときに期限が切れやすい書類ですので、作成日が決まってから取得するのが確実です。
書類を集める前に照合しておきたいこと
- 本人の住民票の住所と、身分証明書の住所が一致しているか
- 戸籍上の氏名の漢字と、通帳や不動産の登記簿の表記が一致しているか
- 受任者が複数になる場合、全員分の書類がそろっているか
- 代理権の対象にする財産(預金口座・不動産)の資料が手元にあるか
財産の資料は一律の必須書類としては挙げられていませんが、代理権や対象財産を具体的に検討するために役立ちます。通帳の表紙、固定資産税の納税通知書、不動産の登記事項証明書を手元に用意しておくと、文案づくりが早く進みます。
最も大切なのは「代理権目録」の設計です
任意後見人ができることは、公正証書に添付される代理権目録に書かれた事項だけです。成年後見人のような包括的な代理権はありませんし、取消権もありません。ここが任意後見の公正証書づくりの核心になります。
代理権目録には2つの様式があります
代理権目録の様式は、任意後見契約に関する法律第三条の規定による公正証書の様式に関する省令で定められています。附録第1号様式は、財産管理・金融機関との取引・介護契約などの項目に□でチェックを入れていく方式です。附録第2号様式は、任せる事項を文章で書き出していく方式です。
どちらを使うかは公証人との相談で決まりますが、いずれの場合も「何にチェックを入れるか」「何を書くか」を決めるのは本人です。日本公証人連合会も、標準的な代理権目録から不要な項目を削ったり、「居住用不動産の処分は含まない」のように範囲を限定したりできると説明しています。
入れ忘れると困る代理権の例
将来の生活を思い浮かべながら、次の場面ごとに代理権が入っているかを確認してください。
| 将来起こりうる場面 | 確認したい代理権 | 入っていないと |
|---|---|---|
| 施設に入る費用のために自宅を売る | 居住用不動産の処分 | 任意後見人は売却できない |
| 軍用地料や家賃を受け取る | 定期的な収入の受領(地代・家賃) | 受取口座の変更などが進まない |
| 有料老人ホームに入る | 福祉関係施設への入所に関する契約 | 入居契約を本人に代わって結べない |
| 配偶者が亡くなり相続が起きる | 遺産分割・相続の承認や放棄 | 遺産分割協議に参加できない |
| 名義変更や住所変更の登記をする | 登記の申請 | 登記手続きを任せられない |
特に沖縄では、軍用地や共有名義の土地をお持ちの方が少なくありません。賃料の受領だけを任せるのか、将来の売却まで任せるのかによって、選ぶ項目が変わります。「売ってほしくない土地」がある場合は、その土地を処分の対象から外すことも検討できます。
広く任せるか、絞るか
代理権を広くすれば、将来の想定外の手続きにも対応しやすくなります。一方で、受任者に任せる範囲が大きくなる分、ご家族の中で不安の声が出ることもあります。
判断の目安は、「その手続きが必要になったとき、代理権がなければ法定後見を申し立てるしかなくなるか」です。預金、年金、施設、自宅は、抜けていると生活が止まりやすい項目ですので、基本的には入れておくことをお勧めいたします。そのうえで、特定の財産だけを外す、複数の受任者の役割を分けるといった調整で、ご家族の納得感を得る方法があります。
公正証書に一緒に定めておきたいこと
代理権目録のほかにも、契約書の本文で決めておくと後々助かる事項があります。
- 任意後見人の報酬:無報酬にするか、月額いくらにするか
- 事務にかかった費用の負担:交通費や書類取得費を本人の財産から支払うか
- 本人の希望:できるだけ自宅で暮らしたい、どの施設を希望するかなど
- 複数の受任者を置く場合の役割:それぞれが単独で動けるのか、共同で動くのか
また、任意後見契約は発効するまで効力がなく、本人が亡くなった時点で終了します。発効前の財産管理を任せたい場合は財産管理等委任契約を、判断能力の変化に気づいてもらうためには見守り契約を、亡くなった後の手続きを任せたい場合は死後事務委任契約を、それぞれ別に結ぶことが考えられます。何本の契約を同時に作るかで、公証役場の手数料も変わります。
公証役場に納める費用の要点
日本公証人連合会の「任意後見契約公正証書を作成する費用は、いくらでしょうか?」によると、主な費用は次のとおりです。
- 公正証書の作成手数料:1契約につき13,000円(3ページを超える場合は1ページごとに300円加算)
- 法務局に納める収入印紙代:2,600円
- 登記嘱託手数料:1,600円
- 正本・謄本の作成手数料:電磁的記録は1通2,500円、書面は1枚300円
- 書留郵便料:重量により変動
病床で作成する場合は6,500円が加算されて19,500円になり、日当と交通費も別に必要です。発効後に続く任意後見監督人の報酬まで含めた全体像は、任意後見制度の費用はいくら?契約時・発効時・発効後の3段階を司法書士が解説で詳しくまとめております。
契約してから発効するまでの流れ
任意後見契約の公正証書を作っただけでは、受任者はまだ任意後見人として代理することはできません。別に財産管理等委任契約を結んでいる場合は、その契約の範囲で行えることがあります。本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て、監督人が選ばれたときに初めて契約の効力が生じます。
裁判所の任意後見監督人選任の手続案内によると、申立てができるのは本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者で、申立先は本人の住所地の家庭裁判所です。沖縄県内であれば那覇家庭裁判所の本庁または支部が窓口になります。
発効前に気が変わったときは
監督人が選任される前であれば、公証人の認証を受けた書面によって解除することができます。監督人が選任された後は、正当な理由があり、かつ家庭裁判所の許可を受けた場合に限って解除できます。「作ったけれど内容を見直したい」という場合は、発効前のうちに動くことが大切です。
沖縄で任意後見契約の公正証書を作るとき
日本公証人連合会の公証役場一覧によると、沖縄県内の公証役場は那覇公証センター(那覇市字安里)と沖縄公証役場(沖縄市美里)の2か所です。手数料は全国同じですので、通いやすい方を選んで構いません。
本島北部や離島にお住まいの方、入院・入所中の方は、出張の可否や対応地域を公証役場に相談してください。本人の状態や利用環境、公証人の判断によって、代理人を通じる方法やウェブ会議を利用する方法が認められる場合もあります。予約時に参加方法も相談しておくと安心です。また、県外にお住まいのお子さんが受任者になる場合は、作成当日に本人と受任者がそろう日程を先に決め、その日から逆算して書類の取得や文案の確認を進めると、帰省の回数を増やさずに済みます。デジタル化により、当事者の申出があり公証人が相当と認める場合にはウェブ会議で作成する方式も設けられましたが、使えるかどうかは事案ごとの判断ですので、早めに公証役場へご相談ください。公証役場の手続き全般については、沖縄の公証役場(公証人役場)完全ガイドもご覧ください。
2026年6月成立の改正法との関係
成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)は、2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。法務省の改正法の解説ページによると、任意後見についても、監督人を選任せず家庭裁判所が直接監督できる場合を設けることや、効力を発生させる受任者の順序を定められるようにすることなどが盛り込まれています。
ただし、成年後見制度に関する部分の施行日は「公布の日から2年6月を超えない範囲内で政令で定める日」とされ、2026年9月時点では決まっていません。今作る公正証書は現行制度のもとで作成されます。法務省の資料では、施行日前に結ばれた任意後見契約にも改正後の法律が適用される経過措置が示されていますので、改正を待つ必要は基本的にありません。
よくある質問
契約書の文案は自分で作らなければいけませんか?
文案は公証人が作成し、契約内容について適切な助言も受けられます。相談の前に、任せたい人や財産、ご本人の希望をメモにまとめておくと具体的に話を進めやすくなります。
任せる範囲やご家族の役割分担を整理したい場合は、公証役場へ行く前に司法書士などの専門家に相談し、希望をまとめたメモを持参されると、やり取りが短く済みます。
認知症の診断があっても公正証書を作れますか?
日本公証人連合会は、認知症があるからといって直ちに判断能力が欠けていると評価されるわけではなく、公証人が本人の説明や医師の診断などを参考に個別に判断すると説明しています。
ただし、症状は進行することがあります。診断を受けた段階で、できるだけ早く公証役場や専門家にご相談ください。
受任者は何人でも指定できますか?
複数の受任者を置くことはできます。手数料は原則として受任者の数に応じた契約数で計算しますが、代理権を共同で行使する定めがある場合は1契約として計算されます。具体的な分担と費用を公証役場で確認してください。
複数にするときは、それぞれが単独で代理できるのか、共同でなければ代理できないのかを決めておく必要があります。共同にすると慎重になる反面、一人が動けないと手続きが止まる点にご注意ください。
公正証書の控えは誰が保管すればよいですか?
原本は公証人の側で保管され(電子で作成された原本は日本公証人連合会のシステムで保管されます)、本人や受任者には正本や謄本が交付されます。発効後の手続きで使うのは主に法務局の登記事項証明書ですが、契約内容を確認するために、受任者も控えを手元に置いておくと安心です。
まとめ
任意後見契約の公正証書について解説してまいりました。要点を整理いたします。
- 任意後見契約は公正証書でなければ成立しない。作成後は公証人の嘱託で登記される
- 必要書類は本人・受任者の印鑑登録証明書または顔写真付き身分証明書、戸籍、住民票など。印鑑登録証明書は発行後3か月以内
- 任意後見人ができるのは代理権目録に書かれたことだけ。自宅の売却、賃料の受領、施設入所、相続は特に確認する
- 作成手数料は1契約13,000円。これに印紙代・登記嘱託手数料などが加わる
- 発効は家庭裁判所が任意後見監督人を選任したとき。改正法は成立済みだが施行日は未定
公正証書の内容を変更するには、ご本人の判断能力や発効の有無に応じて、改めて公証役場などでの手続きが必要になります。だからこそ、公証役場へ行く前の「何を任せるか」の整理に時間をかける価値があります。
レスター司法書士法人では、窓口を一つにしてワンストップで対応しております。初回のご相談は無料で承っておりますので、ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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