成年後見人制度の落とし穴|司法書士が教える知られざるリスク

# 「成年後見人をつければ安心」は本当?知っておくべき制度の落とし穴

皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。

「お母さんが最近物忘れがひどくて…」「認知症の診断が出たけど、これからどうすればいいの?」そんなご不安を抱えていらっしゃる方は、少なくないと思います。高齢化が進む現代において、認知症対策は多くのご家族にとって切実な問題です。

「とりあえず成年後見人(判断能力が衰えた方に代わって財産管理や法律行為を行う代理人)をつけておけば安心」という話を耳にされたことがあるかもしれません。確かに成年後見制度は大切な家族を守るための重要な仕組みです。しかし実際には、「つけたから大丈夫」と安心しきってしまうと、思わぬトラブルに巻き込まれるケースが少なくありません。

私自身も司法書士として何件もの成年後見を担当してきましたが、この制度には知っておくべき「落とし穴」がいくつかあります。親族が後見人になった場合のリスク、専門家が後見人になった場合のリスク、そして制度そのものが持つ硬直性――それぞれに課題があるのが現実です。

本日は、成年後見制度の仕組みと役割を確認しながら、制度が抱えるトラブル事例や課題点、そしてこれからどう向き合っていけばよいかについて、丁寧に解説いたします。


目次

そもそも成年後見制度とはどういうものか

成年後見制度が必要とされる理由と、その仕組みをまず整理しておきましょう。制度の目的を正しく理解することが、トラブルを防ぐ第一歩です。

判断能力が衰えると何が起きるか

認知症などで判断能力が衰えてしまうと、日常の契約行為や財産管理を自分で行うことが難しくなります。

具体的には、こんな出来事が起きます。訪問販売の業者が来るたびに「頼まれたから」「いい人だから」と同じ浄水器を何台も購入してしまう。そのことを忘れているから、また買ってしまう。気づいたら家の中に同じ商品が何台も並んでいた——このような消費者被害が、認知症の方に起きやすいのです。

こうした被害から本人を守るために、代わりに判断・行動してくれる「代理人」が必要になります。これが成年後見人の役割です。

成年後見人はどれだけ「強い」権限を持つのか

成年後見人の権限は非常に強力です。

たとえば、判断能力が衰えた本人が訪問販売で何かを購入してしまったとしても、成年後見人がついていれば、その契約を取り消すことができます。浄水器でも着物でもタオルでも、原則として取り消しが可能です。

本人がサインや印鑑を押してしまった後でも、「この方には成年後見人がついているため、本人単独での契約はできません」という理由で無効にできる——これが成年後見制度の大きな強みです。

ただし、支払ったお金を実際に取り戻せるかどうかは、相手方の状況(逃げていないか、資力があるか)にもよります。「取り消せる権利がある」ことと「お金が返ってくる」ことは別問題ですので、その点はご注意ください。


成年後見制度の3つの落とし穴

「それなら成年後見人をつければいいじゃないか」と思われるのは自然なことです。しかし、後見人が誰であるかによって、異なるリスクが生じます。主な問題点は以下の3つです。

  1. 親族が後見人になった場合の「使い込み」リスク
  2. 専門家が後見人になった場合の「硬直化・不正」リスク
  3. 制度自体の構造的な課題

それぞれ解説します。

1. 親族が後見人になった場合の「使い込み」リスク

成年後見人は、本人のためだけに財産を使わなければならないというルールがあります。ところが、親族が後見人になると、このルールが守られないケースが頻繁に起きています。

たとえば、息子や娘がお母さんの後見人になったとします。通帳の管理ができるようになった結果、気づけばギャンブルに使っていた、自分の事業の借金の穴埋めに使っていた、という事例は決して珍しくありません。「お母さんのお金が自分のもののように感じられてしまう」という心理的な錯覚が働くのかもしれません。

また、親族間でのギリギリの判断として相談が多いのが、以下のようなケースです。

よくある「これはいいか?」の相談例
  • 娘の病院代をお母さんの財産から支払ってもいいか
  • 孫への仕送りにお母さんの財産を使っていいか
  • 家族みんなで旅行に行くのにお母さんの財産を使っていいか

結論から言うと、これらは原則としてNGです。成年後見制度は「本人のためだけ」に財産を使う仕組みだからです。娘への支払いも、孫への仕送りも、本人以外の人へお金が出ていく行為とみなされます。

「家族間の話だし、誰も気づかないのでは?」と思われるかもしれません。しかし成年後見人は、毎年家庭裁判所に収支の報告書と通帳のコピーを提出しなければなりません。そこで不審な支出が発覚し、裁判所から指導が入ることもあります。

2. 専門家が後見人になった場合の「硬直化・不正」リスク

では、弁護士や司法書士などの専門家が後見人になれば安心かというと、それもまた一概には言えません。

硬直化の問題から見ると、専門家が後見人になると、法律に忠実すぎるあまり、生活の「融通」がきかなくなりがちです。

たとえば、「もう足腰が弱くなってきたお母さんに、最後の思い出として家族で旅行したい。旅行費用をお母さんの財産から出してもいいか?」という相談があったとします。気持ちとしては十分に理解できます。しかし専門家の後見人としては、「それはお母さんの財産を減らす行為にあたる」として、原則的にNGと判断せざるを得ないのです。

不正流用の問題も深刻です。「専門家に任せているから大丈夫」と思いがちですが、実際には弁護士や司法書士による使い込みの事件も複数発生しています。なかには何億円という規模のケースもあります。「よかれと思って投資してしまった」というケースから、「私的に流用した」という悪質なケースまで、様々です。

専門家への不信感から、突然事務所に押しかけて「通帳を見せろ、使い込んでいるだろう」と詰め寄られた経験が、私にもあります。そういった場合には「すべて家庭裁判所に報告しているので、裁判所を通じてご確認ください」とお伝えするしかないのですが、ご家族の不安は当然のことだと感じています。

3. 制度自体の構造的な課題

成年後見制度には、仕組みそのものにもいくつかの課題があります。

①権限が包括的すぎる 成年後見人は不動産・預貯金・契約など、本人のあらゆる財産・権利行為を一括して管理します。「不動産だけ」「特定の手続きだけ」というように部分的に権限を限定できないため、後見人の負担が大きく、また不正のリスクも高まります。この点については、法律改正によって権限を限定できるよう改善が進められています。

②一度選任されたら原則として解任できない 後見人は、本人が亡くなるまで原則として変更できません。合わない専門家がついてしまっても、裁判所に申し立てをしても首にできなかった、というケースもありました。この点も法改正の対象となっています。

③報酬のアンバランス 頑張って丁寧に対応している社会福祉士がほぼボランティアに近い報酬しか得られない一方で、通帳を預かって眺めているだけの弁護士が毎月5万円を固定で受け取るケースがある——これは制度設計の問題です。報酬の基準が実態に合っておらず、「何もしないのにサブスクのように毎月もらえる」という状況が生まれてしまっています。


成年後見制度との正しい向き合い方

制度の問題点を踏まえたうえで、「ではどうすれば大切な家族を守れるのか」を考えてみましょう。

「任せたから安心」という発想を手放す

成年後見制度は、あくまで「道具」の一つです。後見人をつけることで詐欺被害を防いだり、契約を取り消したりできる強力な仕組みではありますが、「後見人がいるから大丈夫」と任せきりにすると、新たなトラブルが生まれます。

親族が後見人になっても、専門家が後見人になっても、それぞれにリスクがあることをご理解ください。

家族全員・社会全体で見守る体制を

最も大切なのは、複数の目で見守ることです。

後見人が一人で抱え込む体制ではなく、家族全員が状況を把握し、施設のスタッフや地域の支援者とも情報を共有しながら、チームとして高齢者を支えていく——そういう体制を整えることが、制度の限界を補う現実的な方法です。

専門家(弁護士・司法書士・社会福祉士)の役割は、消費者被害や詐欺被害が起きたときに迅速に対処し、契約を取り消してお金を取り戻す「専門的な知識が必要な場面」に集中させることが理想的です。日常の見守りは、家族や地域が担う。その役割分担こそが、制度をうまく機能させる鍵です。

法改正の動きにも注目を

成年後見制度の問題点は広く認識されており、現在も法改正が進められています。主な改正の方向性は以下のとおりです。

  • 後見人の権限を一部(特定の財産・手続き)に限定できるようにする
  • 合わない後見人を変更しやすくする
  • 報酬制度をより実態に即したものに改善する

制度は少しずつ改善されていますが、根本的な「本人を守る」という趣旨は変わりません。制度を正しく活用しながら、社会全体で支え合うという発想が大切です。


まとめ

  • 成年後見制度は強力な権限を持つ仕組みであり、詐欺被害の取り消しや財産保護に役立つ一方、「つけたから安心」と過信するのは危険です
  • 親族が後見人になった場合は使い込みのリスクがあり、本人以外への支出(旅行・孫への仕送り等)は原則NGという厳しいルールがあります
  • 専門家が後見人になった場合も、硬直した対応や不正流用の事例があり、過信は禁物です
  • 制度そのものにも、権限の包括性・解任の難しさ・報酬のアンバランスという構造的な課題があります
  • 大切なのは「誰か一人に任せる」のではなく、家族・専門家・地域が連携してチームで見守る体制をつくることです

成年後見制度の活用について、「うちの場合はどうすればいいのか」とお悩みの方は、ぜひお気軽にレスター司法書士法人にご相談ください。認知症対策や成年後見に関するご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にレスター司法書士法人にご相談ください。

YouTubeやってます!

本記事の内容は、YouTube動画『「旅行いくな」「孫に使うな」成年後見人が制限する理由→“何もしなくて月5万”』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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監修者 司法書士 日高憲一

この記事の監修者

日高 憲一(レスター司法書士法人 代表社員司法書士)

沖縄県名護市出身。那覇市壺川で開業以来、相続登記・家族信託・渉外登記・事業承継など沖縄の登記・法務案件を幅広く手がける。実務経験20年・相続案件実績2,000件。

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