任意後見人と成年後見人の違いは?6つの比較軸と選び方を司法書士が解説

任意後見と成年後見

皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。

「任意後見人」と「成年後見人」。どちらも親御さんの財産を守る仕組みだと聞いたけれど、名前が似ていて何がどう違うのか分からない、という声を日々のご相談でよくいただきます。

調べてみても「任意後見は自分で選べる」「成年後見は裁判所が選ぶ」といった説明までは出てくるものの、では自分の家はどちらを選べばよいのか、その判断まではなかなかたどり着けないのではないでしょうか。

さらに厳しい現実として、この2つは「好きな方を選べる」制度ではありません。ご本人の判断能力がどの段階にあるかによって、選べる選択肢そのものが変わってしまいます。

本日は、任意後見人と成年後見人の違いを6つの比較軸で整理したうえで、どちらを選ぶべきかの判断の順序、そして「すでに判断能力が落ちている場合はどうなるのか」という現実的なところまで解説いたします。あわせて、2026年6月に成立した改正法で何が変わるのかにも触れてまいります。

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目次

結論|違いの本質は「誰が選ぶか」と「いつ始められるか」

結論から申し上げます。任意後見人と成年後見人の違いは細かく挙げれば十数項目になりますが、実務上いちばん効いてくるのは次の2つです。

  1. 任意後見人は「ご本人が元気なうちに、自分で選んで契約する」支援者です
  2. 成年後見人は「判断能力が低下した後に、家庭裁判所が選ぶ」支援者です

この違いから、権限の範囲・報酬・監督のされ方・途中でやめられるかまで、すべてが枝分かれしていきます。順番に見ていきましょう。

先に用語を整理します|「成年後見人」は法定後見の中の一類型

混乱の原因は、「成年後見」という言葉が2つの意味で使われていることにあります。

  • 広い意味の成年後見制度:法定後見と任意後見の両方を含む、制度全体の呼び名
  • 狭い意味の成年後見人:法定後見の3類型(後見・保佐・補助)のうち「後見」がついたときの支援者

「任意後見人と成年後見人の違い」を検索される方が知りたいのは、ほぼ後者との比較、つまり任意後見と法定後見の違いです。本記事もその前提で整理してまいります。法定後見の3類型や制度全体の輪郭については、成年後見制度とは?わかりやすく全体像と3つの類型・家族がなれるかを解説した記事で詳しくまとめておりますので、あわせてご覧ください。

6つの比較軸で見た違い【比較表】

まずは全体像を一覧でご確認ください。

比較軸任意後見(任意後見人)法定後見(成年後見人など)
後見人を選べるか本人が自分で選び、契約で決める家庭裁判所が選任する。候補者を書いても希望どおりとは限らない
始まるタイミング元気なうちに契約→判断能力が低下した後、監督人選任で発効判断能力が低下した後に申立て→審判で開始
後見人の権限契約で定めた範囲の代理権のみ。取消権はない法律で定まる。成年後見人は日常生活に関する行為を除き取消権あり
報酬後見人の報酬は契約で定める。監督人の報酬は家庭裁判所が決定家庭裁判所が本人の財産などを考慮して決定する
監督人任意後見監督人が必ずつく(現行法)必ずつくわけではない。必要に応じて選任される
やめられるか発効前は比較的やめやすい。発効後は家庭裁判所の許可が必要判断能力が回復しない限り、原則として途中でやめられない

ここから、1軸ずつ「実務ではどういう意味を持つのか」を掘り下げてまいります。

違い①|後見人を自分で選べるかどうか

任意後見は「この人に頼みたい」を契約で確定できる

任意後見の最大の価値は、支援してほしい相手をご本人が指名できる点にあります。長男に頼みたい、遠方の長女に頼みたい、あるいは家族には負担をかけたくないので専門職に頼みたい。その意思をそのまま契約の形にできます。

しかもこの契約は、公正証書で作成することが法律上の要件です。口約束やご家族が用意した書面では効力を持ちません。公証人が関与することで、契約時点でご本人に契約を理解する力があったことが確認され、後から「本当に父の意思だったのか」と揉めにくくなる副次的な効果もあります。

法定後見は候補者を書いても、選ぶのは家庭裁判所です

一方、法定後見では申立書に後見人の候補者を記載できます。ただし、これはあくまで「希望」であり、実際に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。この点を誤解されている方が非常に多い印象です。

最高裁判所事務総局家庭局が公表している成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)によると、この現実は数字にはっきり表れています。

誰が成年後見人等に選ばれているか(令和7年・全国)
  • 親族が選任された割合:約16.4%(7,014件)
  • 親族以外が選任された割合:約83.6%(35,718件)
  • 親族以外の内訳:司法書士 11,966件/弁護士 8,903件/社会福祉士 7,280件 ほか
  • そもそも申立書に親族の候補者が記載されていた事件:約19.7%

注目していただきたいのは、親族を候補者として立てた事件が約19.7%、実際に親族が選任されたのが約16.4%という関係です。つまり「候補者として立てたのに選ばれなかった」ケースが一定数あるということになります。

財産の額が大きい、親族間で意見が分かれている、収支の管理が複雑といった事情があると、中立的な専門職が選ばれる傾向があります。もっとも、選任の判断は個別事情によりますので、一律に「家族では無理」ということではありません。

違い②|制度が始まるタイミングと手続きの流れ

任意後見は「契約」と「発効」の二段構えです

ここを誤解されている方が本当に多いので、強調しておきます。任意後見契約を結んだ日から、すぐに任意後見が始まるわけではありません。

  1. 契約段階:ご本人と受任者が公証役場で任意後見契約公正証書を作成する。公証人の嘱託により東京法務局に登記される
  2. 待機期間:ご本人の判断能力が十分な間は、契約書は「効力の眠った状態」で保管される
  3. 発効段階:判断能力が不十分になったら、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てる
  4. 開始:任意後見監督人が選任された時点で契約の効力が生じ、任意後見人の仕事が始まる

裁判所の任意後見監督人選任の手続案内によれば、この申立てができるのはご本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者で、申立先はご本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

つまり、契約しただけで安心して放置してしまうと、いざというときに誰も申立てをせず、契約が使われないまま終わる可能性があります。契約時に「誰がいつ動くのか」まで家族で共有しておくことが実務上とても大切です。

法定後見は判断能力が落ちてから申し立てます

法定後見は逆に、判断能力が低下した「後」でなければ始められません。裁判所の後見開始の手続案内のとおり、ご本人の住所地の家庭裁判所へ申し立て、審判を経て開始します。

期間の目安として、前掲の概況によれば終局した事件のうち2か月以内に終わったものが約71.1%、4か月以内が約93.8%です。ただし、これは申立て後の審理期間であり、戸籍や診断書、財産目録の準備期間は含まれません。準備を含めれば半年近くかかることも珍しくありません。

違い③|後見人の権限|取消権があるかないか

ここが実務上もっとも重要でありながら、いちばん知られていない違いです。

成年後見人には「取消権」があります

裁判所の説明によれば、成年後見人は本人の財産に関するすべての法律行為を本人に代わって行うことができ、さらに本人が自ら行った法律行為について、日常生活に関するものを除いて取り消すことができます

これは非常に強い力です。判断能力が落ちた親御さんが訪問販売で高額なリフォーム契約を結んでしまった、といった場面で、成年後見人はその契約を「なかったこと」にできます。

任意後見人には取消権がありません

対して、任意後見人が持つのは契約で定めた範囲の代理権だけです。取消権は認められていません。

これは制度の理念から来ています。任意後見は「ご本人の自己決定を最大限尊重する」制度であり、ご本人自身が結んだ契約を後見人が一方的に覆すことは想定されていないのです。理念としては筋が通っていますが、実際に被害が起きた場面では守りが薄くなります。

典型的なのが、次のようなケースです。

  • 訪問販売や電話勧誘で不要な商品を繰り返し購入してしまう
  • 投資用マンションや高額な健康食品の定期購入を契約してしまう
  • 親しくなった相手に繰り返しお金を渡してしまう

取消権がない場合、どう守るのか

任意後見を選んだ場合、こうした被害にはクーリング・オフや消費者契約法にもとづく取消しなど、後見制度とは別の手段で対応することになります。悪質商法の被害が疑われる場合は、消費者ホットライン「188(いやや!)」や各地の消費生活センターへの早めのご相談をおすすめいたします。

また、消費者被害が繰り返し発生し、任意後見人の代理権だけでは守りきれないと判断される場合には、家庭裁判所が法定後見の開始を認めることがあります。この判断は「ご本人の利益のために特に必要があると認めるとき」に限られますので、実務では専門家を交えた慎重な検討が必要です。

裏を返せば、浪費や消費者被害のリスクが具体的に見えているご家庭では、任意後見だけでは足りない可能性があるということです。ここは選択の分かれ目になります。

違い④|費用と報酬の違い

費用は「制度に必ずかかる法定費用」と「支援者に払う報酬」に分けて考えると整理しやすくなります。まず法定費用から見ていきましょう。

任意後見でかかる法定費用

日本公証人連合会が公表している任意後見契約公正証書の費用と、前掲の裁判所の案内をもとに整理すると、次のとおりです。

任意後見の法定費用(公的機関に納める実費)
  • 公正証書作成の基本手数料:1契約につき1万3,000円(枚数が一定を超えると1枚ごとに300円加算)
  • 法務局に納める収入印紙代:2,600円
  • 登記嘱託手数料:1,600円
  • 書留郵便料:実費(重量により異なる)
  • 発効時:任意後見監督人選任の申立手数料 収入印紙800円+登記手数料 収入印紙1,400円+郵便切手(裁判所ごとに異なる)

法定後見でかかる法定費用

法定後見(後見開始)の法定費用
  • 申立手数料:収入印紙800円
  • 登記手数料:収入印紙2,600円
  • 郵便切手:裁判所ごとに異なる
  • 鑑定費用:必要と判断された場合のみ申立人が負担。令和7年に鑑定が実施されたのは全体の約3.4%で、そのうち約85.8%が10万円以下
  • ほかに診断書の作成費用、戸籍・住民票の取得費用などがかかります

入口の実費だけを比べると、任意後見のほうが公正証書を作る分だけ高くなります。ただし任意後見は元気なうちに一度払うだけであり、法定後見は緊急時に慌てて準備することになります。金額だけで優劣を判断するものではありません。

報酬は誰がいくら決めるのか

報酬の決まり方は、両制度で大きく異なります。

  • 任意後見人の報酬:ご本人と受任者の契約で自由に定めます。ご家族が受任者になる場合、無報酬とすることも可能です
  • 任意後見監督人の報酬家庭裁判所が決定します。契約で決めることはできません
  • 成年後見人等の報酬:家庭裁判所が本人の財産状況や後見事務の内容を考慮して決定します

ここで見落とされがちなのが、任意後見では「後見人」と「監督人」の2人分の負担が生じうる点です。ご家族が無報酬で任意後見人を務めたとしても、任意後見監督人には家庭裁判所が定める報酬が発生し、これはご本人の財産から支払われます。

なお、専門家への依頼費用は事務所によって異なりますので、実際の総額はご相談の際に個別にご確認ください。当事務所でも初回相談は無料で承っております。

違い⑤|監督人がつくかどうか

現行法では、任意後見には任意後見監督人が必ずつきます。前述のとおり、監督人が選任されて初めて契約が発効する仕組みだからです。

監督人は、任意後見人が契約どおりに仕事をしているかをチェックし、家庭裁判所に報告します。実務では弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることが一般的で、ご本人やご家族が指名することはできません。

一方、法定後見では監督人が必ずつくわけではありません。家庭裁判所が必要と判断した場合に成年後見監督人などが選任されます。専門職が後見人になっている場合は、監督人がつかないことも多くあります。

「自分で選んだ家族に任せられるのが任意後見の良さ」と考えていた方にとって、必ず第三者の監督が入るという点は意外に感じられるかもしれません。ただしこれは、ご本人の財産を守る仕組みとして機能している面もあります。

違い⑥|途中でやめられるかどうか

「一度始めたら一生続く」という点は、後見制度で最も相談が多い不安です。ここでも両者は異なります。

  • 任意後見(発効前):ご本人と受任者のいずれからでも、公証人の認証を受けた書面によって解除できます。気が変わった、受任者との関係が変わったといった場合にも対応しやすい段階です
  • 任意後見(発効後):正当な事由があるときに限り、家庭裁判所の許可を得て解除できます
  • 法定後見:現行法では、判断能力が回復しない限り原則としてやめられません。遺産分割のために始めたとしても、それが終わったあとも続きます

この「法定後見は原則やめられない」という点は、後述する2026年6月成立の改正法で見直されることになりました。ただし施行はこれからですので、現時点で申立てを検討されている方は現行制度を前提にご判断ください。

どちらを選ぶべきか|3つの質問で分かれる判断フロー

ここまでの違いを踏まえて、実際にどちらを選ぶかの順序を整理いたします。次の3つの質問に上から順に答えてみてください。

質問1|ご本人に十分な判断能力が残っていますか

これが最初の、そして最も大きな分岐点です。

「いいえ」であれば、選択肢は法定後見だけになります。任意後見は契約である以上、契約内容を理解し自分の意思で結ぶ力が必要だからです。判断能力が低下してからでは、どれほど良い受任者候補がいても契約はできません。

「はい」であれば、任意後見という選択肢が使えます。次の質問へ進んでください。

質問2|任せたい人が具体的に決まっていますか

任意後見は「この人に頼みたい」という意思があってこそ活きる制度です。特に次のような場合は、任意後見のメリットが大きくなります。

  • お子さんが複数いて、財産管理は特定の1人に任せたいという希望がある
  • おひとりで暮らしていて、甥・姪や信頼できる知人に頼みたい
  • 家族には金銭管理の負担をかけたくないので、専門職に頼んでおきたい
  • 入院や施設入所の手続き方針など、支援の内容まで自分で決めておきたい

質問3|取消権が必要になりそうですか

違い③でご説明したとおり、任意後見人には取消権がありません。すでに次のような兆候が出ている場合は、任意後見だけでは守りが足りない可能性があります。

  • 訪問販売や電話勧誘で不要な契約をしてしまったことがある
  • 使途のはっきりしない出金が続いている
  • 特定の人物が金銭面で強く関与している

このような場合は、任意後見を選ぶにしても、日常的な見守り契約や財産管理委任契約を組み合わせて早期に異変を察知できる体制にしておくなど、設計上の工夫が必要になります。

迷ったときの考え方

おおまかな整理としては、次のようになります。

  1. 判断能力が十分あり、任せたい人がいる→ 任意後見を軸に検討
  2. 判断能力が十分あるが、財産の管理や活用を柔軟にしたい→ 家族信託との比較・併用も検討
  3. 判断能力が十分あるが、消費者被害の懸念が具体的にある→ 任意後見+見守りの設計、または将来の法定後見も視野に
  4. すでに判断能力が低下している→ 法定後見一択。急ぐ事情があるかを確認

2番目の家族信託については、家族信託は認知症になってからでは遅い?契約できる判断基準と任意後見との違いを解説した記事で判断能力の基準まで踏み込んで整理しております。どこに相談すればよいか自体で迷われている場合は、成年後見は誰に相談すべき?司法書士・弁護士・行政書士の違いもあわせてご覧ください。

すでに判断能力が落ちている場合、選べるのは法定後見だけです

ここは、あまり正面から書かれることのない部分ですが、ご相談の現場では最も多い状況ですので正直にお伝えします。

数字が示す現実|任意後見は全体の約2%

前掲の成年後見関係事件の概況(令和7年)では、申立件数の内訳は次のようになっています。

申立件数の内訳(令和7年1月〜12月・全国)
  • 合計:43,159件
  • 後見開始:29,233件
  • 保佐開始:9,743件
  • 補助開始:3,302件
  • 任意後見監督人選任:881件(全体の約2%)

任意後見監督人選任の申立ては年間900件に届きません。制度としての知名度は上がっているのに使われていないのは、多くのご家庭が「困ってから」動き出すからです。同じ資料で、制度利用の開始原因の約61.3%が認知症とされていることが、それを裏づけています。

また、申立ての動機として最も多いのは預貯金等の管理・解約(約93.4%)です。多くの場合、「銀行で親の口座が止まった」「実家を売らないと施設費用が足りない」といった、待ったなしの状況が引き金になっています。

「まだ大丈夫」と思っているうちが、契約できる時期です

任意後見契約ができるかどうかは、公証人がご本人と面談し、契約の内容を理解する力があるかを確認したうえで判断されます。医師の診断書が求められることもあります。

この線引きは、外から見た元気さとは必ずしも一致しません。日常会話は問題なくできても、財産の内容や契約の意味を説明できない段階になっていれば難しくなります。「まだ元気だから来年でいい」と先延ばしにされたご家庭が、翌年には契約できなくなっていた、というケースを実際に見てまいりました。

もしすでに判断能力が低下している場合でも、悲観する必要はありません。法定後見は「使いにくい制度」と語られがちですが、預金の凍結を解いて生活費を確保する、施設費用のために不動産を売却するなど、止まってしまった生活を動かす力を持っています。大切なのは、どの類型が適切か、誰が申し立てるか、いつまでに必要かを冷静に整理することです。

沖縄で後見制度を利用するときに知っておきたいこと

申立先は那覇家庭裁判所(本庁・支部)です

法定後見の申立ても、任意後見監督人選任の申立ても、申立先はご本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。沖縄県内にお住まいであれば那覇家庭裁判所の本庁または沖縄支部・名護支部・平良支部・石垣支部が窓口になります。ご家族が県外にお住まいでも、この管轄は変わりません。

なお、任意後見契約の公正証書は全国どこの公証役場でも作成できます。県外にお住まいのお子さんが受任者になる場合、契約はご本人のお近くの公証役場で、発効の申立ては那覇家庭裁判所へ、という流れになるのが一般的です。

沖縄は「市区町村長申立て」の割合が全国平均より高い

前掲の概況には、家庭裁判所の管内別データも掲載されています。那覇家庭裁判所管内の状況は次のとおりです。

那覇家庭裁判所管内の申立て状況(令和7年)
  • 申立ての総数:483件
  • うち市区町村長による申立て:128件(約26.5%)
  • 全国平均の市区町村長申立て割合:約23.7%

市区町村長申立てとは、身寄りのない方などについて、ご家族に代わって市町村長が申立てを行う仕組みです。沖縄ではこの割合が全国平均をやや上回っています。ご家族が近くにいない、あるいは連絡が取れない状態で判断能力が低下し、行政が動かざるを得なくなったケースがそれだけ多いということでもあります。

裏を返せば、任意後見を元気なうちに準備しておく意義は、沖縄では全国平均より大きいとも言えます。「誰に頼むか」を自分で決めておけば、行政が動く前にご自身の希望どおりの支援体制を組めるからです。

県外・海外にいるお子さんを後見人にしたい場合

沖縄では、お子さんが本土や海外で就職・結婚され、ご両親だけが県内に残っているというご家庭が本当に多くあります。この場合、次の点にご留意ください。

  • 任意後見なら、県外・海外のお子さんを受任者に指名できます。法律上、居住地による制限はありません
  • ただし発効後は、通帳の管理、施設や病院との連絡、家庭裁判所や監督人への報告といった実務が続きます。距離があるほど負担は大きくなります
  • 実務では、県外のお子さんを任意後見人にしつつ、県内の専門職や見守りサービスと役割を分けて設計することもあります
  • 不動産をお持ちの場合、名義や境界の状況を元気なうちに確認しておくと、いざというときの手続きが格段にスムーズになります

特に軍用地や共有名義の土地、古い相続が未了のままの不動産をお持ちの場合は、後見が始まってからでは動かしにくくなることがあります。判断能力があるうちに整理しておくことをおすすめいたします。

【2026年6月成立】改正法で任意後見・成年後見はこう変わります

後見制度は今、大きな転換点にあります。法務省が公表している「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)の解説によれば、改正法は令和8年(2026年)6月17日に成立し、同年6月24日に公布されました(令和8年法律第45号)。

法定後見側|後見・保佐を廃止し「補助」に一元化

法定後見については、現在の後見・保佐・補助という3類型を廃止し、必要な行為について個別に権限を与える「補助」の仕組みに一元化されます。あわせて、判断能力が回復していなくても、制度を利用する必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば利用を終了できるようになります。

「遺産分割のために始めたのに、終わってもやめられない」という現行制度の課題に、正面から手が入る形です。

任意後見側|監督人の必須化が緩和され、法定後見との併存も可能に

任意後見についても、実務に影響の大きい見直しが盛り込まれています。同資料によれば、主なものは次のとおりです。

  • 任意後見監督人が必ずしも必須ではなくなります。家庭裁判所が明らかに監督人による監督の必要がないと認めるときは、監督人を選任せず家庭裁判所が直接監督することが可能になります
  • 補助の利用を開始しても任意後見契約の存続が認められます。現行法では法定後見が始まると任意後見契約は終了しますが、両立できるようになります
  • 次の受任者をあらかじめ決めておけます。受任者が先に亡くなった場合などに備え、効力を発生させる順序を合意できるようになります
  • 発効の申立てができる人が広がります。ご本人が公正証書で指定した方であれば、親族以外でも発効の裁判手続を申し立てられるようになります

1つ目の監督人に関する見直しは、「必ず監督人の報酬がかかる」という任意後見のハードルを下げる可能性があります。4つ目も、身寄りのない方が任意後見を使いやすくなるという意味で実務的な意義が大きい改正です。

すでに結んだ任意後見契約にも、改正後のルールが適用されます

経過措置として、施行日前に締結された任意後見契約についても、改正後の任意後見契約法が適用されるとされています(ただし旧法のもとで生じた効力は維持されます)。

「改正を待ってから契約したほうがよいのでは」とご相談いただくことがありますが、この経過措置を前提とすれば、待つ必要性は高くないと考えられます。むしろ待っている間に判断能力が低下してしまうリスクのほうが現実的です。

施行はこれから|今の判断は現行制度で

成年後見制度に関する部分の施行日は、公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされています。つまり、現時点ではまだ施行されていません。

今お困りの方が申立てや契約をする場合は、現行制度にもとづいて手続きが進みます。改正の内容は将来の見通しとして頭に置きつつ、目の前の判断は現在のルールで行う、という整理が実務的です。詳細は政令や関係規則の整備を待つ必要があり、今後の情報を注視してまいります。

よくある質問

任意後見と成年後見は、両方使うことができますか?

現行法では、原則として併存しません。任意後見が発効している場合、法定後見は「ご本人の利益のために特に必要があると認めるとき」に限って開始され、その場合は任意後見契約が終了する扱いになります。

ただし前述のとおり、2026年6月成立の改正法では、補助の利用を開始しても任意後見契約の存続を認める方向で見直されました。施行後は運用が変わる見込みです。

任意後見人に家族はなれますか?

なれます。任意後見人はご本人が自由に選べますので、お子さん、配偶者、ご兄弟、甥・姪などのご親族はもちろん、信頼できる知人や専門職も受任者にできます。居住地による制限もありません。

ただし、受任者が未成年者や破産者である場合、ご本人に対して訴訟をした方やその配偶者・直系血族である場合、あるいは不正な行為や著しい不行跡その他任務に適しない事由がある場合には、家庭裁判所が任意後見監督人を選任せず、契約が発効しないことがあります。発効後であっても、同様の事由があるときは家庭裁判所によって解任されることがあります。

この点は法定後見と大きく異なります。法定後見では、ご家族を候補者としても選ばれるとは限らないという実情がありますので、「家族に任せたい」というお気持ちが強い場合は、任意後見のほうが希望に沿いやすいと言えます。

任意後見契約を結んだのに、使わないまま亡くなったらどうなりますか?

契約は効力を生じないまま終了します。判断能力が最後まで保たれていれば、それは幸せなことであり、契約は「使わずに済んだ備え」ということになります。

公正証書の作成費用が無駄になったと感じられるかもしれませんが、法定費用としては1万3,000円の基本手数料に印紙代などを加えた水準です。判断能力が低下した際に法定後見しか選べなくなるリスクと比べて、どう評価するかというご判断になります。

任意後見監督人には誰が選ばれますか?報酬はいくらですか?

選任するのは家庭裁判所です。ご本人やご家族が指名することはできません。実務では弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることが一般的です。

報酬額も家庭裁判所が、ご本人の財産の状況や監督事務の内容を踏まえて決定します。ご本人の財産から支払われますので、任意後見を検討される際は、この負担が継続的に生じることを見込んでおく必要があります。具体的な水準は事案によって幅がありますので、個別にご確認ください。

家族信託とは何が違いますか?

大きな違いは「守備範囲」です。任意後見は財産管理と身上保護(施設入所の契約や医療費の支払いなど、生活面の手続き)の両方をカバーします。一方、家族信託がカバーするのは信託した財産の管理・運用・処分に限られ、身上保護は対象外です。

反面、家族信託は財産の管理・活用の自由度が高く、家庭裁判所の監督も原則として入りません。収益不動産の建て替えや売却といった積極的な運用を想定されている場合は、家族信託が適していることがあります。

実務では、財産面は家族信託で、身上保護は任意後見で、と組み合わせる設計も行われます。どちらもご本人に判断能力があるうちにしか使えないという点は共通です。詳しくは家族信託と任意後見の違いを整理した記事をご覧ください。なお、相続税や贈与税の取扱いについては税理士または所轄の税務署にご確認ください。

まとめ

任意後見人と成年後見人の違いについて解説してまいりました。要点を整理いたします。

  • 違いの本質は「誰が選ぶか」と「いつ始められるか」。任意後見は元気なうちにご本人が選んで契約し、法定後見は判断能力が低下した後に家庭裁判所が選任する
  • 最も実務に効く違いは取消権の有無。成年後見人は日常生活に関する行為を除いて取り消せるが、任意後見人にその力はない
  • 任意後見は監督人が必ずつく。ご家族が無報酬で務めても、監督人の報酬は家庭裁判所が定め、ご本人の財産から支払われる
  • やめやすさも異なる。任意後見は発効前なら公証人の認証を受けた書面で解除できるが、法定後見は現行法では原則やめられない
  • すでに判断能力が低下している場合、選べるのは法定後見だけ。任意後見監督人選任の申立ては年間881件で、成年後見関係事件全体の約2%にとどまる
  • 沖縄は市区町村長申立ての割合が全国平均を上回る(那覇家裁管内 約26.5%)。県外にお子さんがいるご家庭こそ、元気なうちの備えが効く
  • 2026年6月に改正法が成立。法定後見は補助へ一元化されて終了も可能になり、任意後見も監督人の必須化緩和などが盛り込まれた。施行はこれからで、今の手続きは現行制度で進む

後見制度は「どちらが優れているか」ではなく、ご本人が今どの段階にいるかで選べる道が決まる制度です。だからこそ、判断能力があるうちにご家族で話し合っておくことに大きな意味があります。

レスター司法書士法人では、窓口を一つにしてワンストップで対応しております。任意後見契約の設計から、法定後見の申立書類の作成、不動産の名義の整理まで、状況に応じて必要な手続きを整理してご案内いたします。初回のご相談は無料で承っておりますので、ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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監修者 司法書士 日高憲一

この記事の監修者

日高 憲一(レスター司法書士法人 代表社員司法書士)

沖縄県名護市出身。那覇市壺川で開業以来、相続登記・家族信託・渉外登記・事業承継など沖縄の登記・法務案件を幅広く手がける。実務経験20年・相続案件実績2,000件。

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