皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
「親が高齢になってきたので家族信託を勧められたけれど、うちに本当に必要なのだろうか」「調べてみたら『危険』『後悔』という言葉も出てきて、かえって不安になった」——このようなご相談が、当事務所でも年々増えております。
正直に申し上げますと、家族信託はすべてのご家庭に必要な制度ではありません。遺言や成年後見制度で十分に目的を達成できるご家庭も多く、その場合に無理に家族信託を組むと、費用も手間も余計にかかるだけの結果になりかねません。
一方で、家族信託でなければ実現できない財産管理・承継があるのも事実です。大切なのは、売り込みの言葉に流されず、「自分の家庭はどちらなのか」を見極めることです。
本日は、家族信託が必要ないケースを先に明確にした上で、必要なケースとの見分け方、「危険・後悔」と言われる実際の失敗類型、遺言・成年後見との使い分けについて解説いたします。
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結論:家族信託が必要ないケース6つ
結論から申し上げます。以下のいずれかに当てはまる方は、家族信託を急いで契約する必要はないことが多いです。
- 財産が預貯金のみで、金額も多くない
- 「誰に何を渡すか」を決めたいだけ(遺言で足りる)
- すでに本人の判断能力が低下している(成年後見の領域)
- 生前贈与などで財産の移転が済んでいる
- 本人が若く健康で、リスクがまだ遠い
- 財産管理を任せられる家族がいない・家族仲が悪い
それぞれ理由を解説します。
1. 財産が預貯金のみで、金額も多くない
家族信託の主な目的は、認知症などで判断能力が低下した後も、家族が財産の管理・処分を続けられるようにしておくことです。
財産が預貯金のみで金額も多くない場合、日常の生活費や介護費用の支払いであれば、各銀行の代理人サービスや社会福祉協議会の日常生活自立支援事業など、より簡便な仕組みで対応できることがあります。また、全国銀行協会が2021年に公表した考え方では、認知判断能力が低下した預金者について、医療費など本人の利益が明らかな使途に限り、親族による払い出しに応じる余地も示されています。
もちろん、これらは無制限に使える仕組みではありません。しかし「預貯金だけ・少額」のご家庭が、数十万円の費用をかけて信託契約を組むことが釣り合うかどうかは、慎重に考えるべきでしょう。
2. 承継先を決めたいだけなら遺言で足りる
「自分が亡くなった後、誰に何を渡すかを決めておきたい」という目的だけであれば、遺言書で実現できます。
家族信託にも遺言に似た機能(信託終了時の帰属権利者の指定)はありますが、承継先の指定だけが目的なら、遺言の方が費用も手間も抑えられるのが通常です。遺言と家族信託の大きな違いは「生前の財産管理」をカバーするかどうかにあります。逆に言えば、生前の管理に不安がないのであれば、遺言で足りる可能性が高いといえます。
ただし、遺言には遺言特有の落とし穴があります。書き方や内容の不備で想いが実現できなかった実例は、以下の記事で解説しております。
3. すでに判断能力が低下している——成年後見制度の領域
家族信託は「契約」です。財産を託すご本人(委託者)に、契約内容を理解できる判断能力があることが大前提となります。
すでに認知症が進行し、契約の意味を理解できない状態になってからでは、家族信託は利用できないのが原則です。この段階では、家庭裁判所が関与する成年後見制度(法定後見)の利用を検討することになります。制度の概要や申立て手続きは、裁判所の後見ポータルサイトで確認できます。
なお、「間に合うかどうか」は診断名だけで決まるものではなく、契約時点の判断能力の程度によります。迷われている段階であれば、早めに専門家へご相談ください。
4. 生前贈与などで財産の移転が済んでいる
すでに主要な財産をお子様などへ贈与済みであれば、管理を託すべき財産そのものが残っていないため、家族信託の必要性は低くなります。
ただし、贈与には贈与税や不動産取得税などの負担が伴い、有利かどうかは個別事情により異なります。税額に関わる判断は税理士・税務署の領域となりますので、実行前に必ずご確認ください。
5. 本人が若く健康で、リスクがまだ遠い
家族信託の必要性が高まるのは、判断能力の低下が現実的なリスクとして見えてきた時期です。ご本人がまだ若く健康であれば、今すぐ契約しなければならない理由は乏しいでしょう。
一方で、家族信託は「元気なうちにしか組めない」制度でもあります。先延ばしにしている間に体調が変わり、選択肢がなくなってしまうリスクがあることも、正直にお伝えしておきます。「まだ必要ない」と「もう間に合わない」の間は、思っているより短いことがあります。
6. 任せられる家族がいない・家族仲が悪い
家族信託は、財産を託される家族(受託者)が誠実に管理することを土台にした制度です。任せられる家族がいなければ、そもそも成り立ちません。
また、家族仲が悪い状態で一部の家族だけを受託者にすると、信託契約そのものが新たな争いの火種になることがあります。すでに紛争性が高い事案は、弁護士の関与が必要な領域です。この場合は家族信託ありきではなく、争いの整理から始めることをお勧めします。
あなたに家族信託が必要かどうかの見分け方
では逆に、どのようなご家庭であれば家族信託を検討する価値があるのでしょうか。
必要性が高いのは「不動産×認知症リスク×活用予定」が重なる人
実務の感覚では、次の条件が重なるご家庭ほど、家族信託の価値が大きくなります。
- 実家・収益物件・軍用地など、不動産が財産に含まれる
- 親御様の判断能力低下が現実的なリスクになってきた
- 施設入居費や介護費用のために、将来その不動産を売却・活用する可能性がある
- 二次相続以降の承継先まで指定したい(受益者連続型の活用)
- 障がいのあるお子様の生活を長期にわたって支えたい
特に「親名義の実家を、将来の施設費用のために売却するかもしれない」というご家庭は要注意です。判断能力低下後の不動産売却は、成年後見制度を利用したとしても、居住用不動産の処分に家庭裁判所の許可が必要になるなど、制約が大きくなります。
かんたん判定の考え方
- 財産に不動産が含まれますか? → 含まれず預貯金も少額なら、必要性は低め
- 生前に売却・建替えなど財産を動かす可能性がありますか? → なければ遺言で足りる可能性大
- ご本人は契約内容を理解できる状態ですか? → 難しければ成年後見制度の検討へ
- 財産管理を任せられるご家族はいますか? → いなければ別の方法の検討へ
4つすべてが「はい」方向なら、家族信託を検討する価値が高いご家庭です。
「家族信託は危険・後悔する」と言われる4つの失敗類型
インターネットで「家族信託 危険」「家族信託 後悔」と検索される方が多くいらっしゃいます。しかし実務の実感を申し上げると、家族信託という制度そのものが危険なのではなく、設計と運用を誤ったときに後悔につながるのです。よく見られる失敗は、次の4類型に集約されます。
失敗類型1:受託者の独断・使い込みを防ぐ設計をしなかった
家族信託では、受託者に財産の管理・処分権限が集中します。信託法上、受託者には分別管理義務や帳簿の作成・報告義務が課されていますが、実際に守られるかどうかは運用次第です。
兄弟の一人を受託者にしたところ、他の兄弟への報告を怠り、「使い込んでいるのではないか」と疑われて家族仲が悪化した——というのは典型的な後悔のかたちです。実際に使い込みがあったかどうかにかかわらず、疑心暗鬼が生まれた時点で家族の関係は傷つきます。
信託監督人や受益者代理人を置く、家族への定期報告のルールを契約書に明記するなど、権限の集中を牽制する仕組みをあらかじめ設計しておくことが重要です。
失敗類型2:税務の見落とし
家族信託は、設計を誤ると思わぬ税負担が生じることがあります。代表的な注意点は次のとおりです。
- 委託者と受益者を別の人にすると(他益信託)、贈与税の課税対象となりうる
- 信託した不動産から生じた損失は、他の所得と損益通算できない
- 信託を終了・変更するタイミングによっては、想定外の課税関係が生じることがある
また、「家族信託をすれば相続税が安くなる」という誤解も見受けられますが、家族信託自体に相続税の節税効果はないのが原則です。税務の影響は個別事情により大きく異なりますので、契約前に税理士・税務署へ確認できる体制で進めることが不可欠です。
失敗類型3:専門家の経験不足による契約書の不備
家族信託は比較的新しい制度で、判例や実務の蓄積が現在も進んでいる途上の分野です。法律専門職であれば誰でも精通している、とは限りません。
実際に、信託口口座の開設要件を満たさない契約書を作ってしまい銀行で断られた、信託財産の追加や契約変更の条項を入れておらず状況の変化に対応できなくなった、といった不備は起きています。契約書は作って終わりではなく、その後何年、何十年と運用されるものです。
依頼先を選ぶ際は、家族信託の組成実績や、金融機関との調整経験があるかどうかを確認することをお勧めします。
失敗類型4:銀行・金融機関の壁を想定していなかった
家族信託の実務では、金融機関との関係が想像以上に重要です。
- 信託専用の「信託口口座」を開設できる金融機関は限られており、各行で要件も異なる
- 住宅ローンなどの担保が残った不動産を信託するには、金融機関の承諾が必要になるのが通常
- 事前調整をせずに契約だけ済ませると、「契約はしたのに運用できない」状態になりうる
契約書の作成と並行して、口座開設先や担保権者との調整を進めておくことが、後悔しないための実務上のポイントです。
なお、家族信託に限らず、相続対策は「対策したつもりが裏目に出る」ことが少なくありません。実際にあった相続対策の失敗例は、以下の記事でも解説しております。
遺言・成年後見・家族信託の使い分け比較表
ここまでの内容を、3つの制度の使い分けとして整理します。
| 項目 | 遺言 | 成年後見 | 家族信託 |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 死後の承継先の指定 | 判断能力低下後の本人保護 | 生前の財産管理+承継先の指定 |
| 効力が生じる時期 | 死亡時 | 判断能力の低下後 | 契約時から(設計による) |
| 生前の財産管理 | できない | できる(本人保護が目的) | できる(活用も柔軟) |
| 不動産の売却・活用 | 対象外 | 制約が大きい(居住用は家裁の許可が必要) | 信託目的の範囲で受託者が実行可能 |
| 身上監護(施設入所契約など) | できない | できる | できない |
| 二次相続以降の承継指定 | 原則できない | できない | できる(受益者連続型) |
| 継続的なコスト | 原則なし | 専門職後見人等の報酬が継続することがある | 原則なし(監督人を置く場合は別途) |
ご覧のとおり、3つの制度は競合ではなく役割分担の関係にあります。家族信託には施設入所契約などの身上監護の機能がないため、任意後見契約と組み合わせて設計するケースもあります。「どれか一つを選ぶ」のではなく、ご家庭の目的に合わせて組み合わせる発想が大切です。
家族信託にかかる費用の正直な目安
「必要ない」かどうかの判断材料として、費用の目安も正直にお伝えします。
- 公正証書の作成手数料:信託契約書を公正証書にする場合、目的となる財産の価額に応じて手数料がかかります(例:目的価額5,000万円超1億円以下で4万3,000円)。金額の根拠は公証人手数料令で定められています
- 信託登記の登録免許税:不動産を信託する場合、土地は固定資産税評価額の1,000分の3(0.3%)、建物は1,000分の4(0.4%)の登録免許税がかかります(国税庁「登録免許税の税額表」)
- 専門家への報酬:設計・契約書作成・登記などの報酬は事務所により異なります。一般には信託財産の評価額の1%前後を目安とする例が多く、財産構成によって数十万円台からとなるのが相場観です
決して安い金額ではありません。ただ、比較の視点として、成年後見制度で専門職後見人が選任された場合には、月額の報酬負担が本人が亡くなるまで続くことがあります。初期費用の大きさだけでなく、長期のトータルコストで比較することをお勧めします。
費用の詳細な内訳と費用倒れになりやすいケースは「家族信託の費用はいくら?」で解説しています。
沖縄で家族信託を考えるときの実務事情
当事務所は沖縄で相続・生前対策のご相談をお受けしていますが、沖縄には家族信託の要否判断に影響する地域特有の事情があります。
軍用地は「信託に向く財産」の代表例
軍用地は、毎年の軍用地料という安定収入を生む沖縄特有の資産です。所有者であるご本人の判断能力が低下すると、軍用地料の管理や売却、契約関係の手続きに支障が生じます。
収益を生む財産の管理を長期にわたって家族に任せる、という家族信託の得意分野に合致するため、軍用地をお持ちのご家庭は「必要なケース」に該当する可能性が比較的高いといえます。信託に伴う登記は、沖縄本島であれば那覇地方法務局(および各支局)での手続きとなります。
トートーメーの承継と実家の行き先
沖縄では、トートーメー(位牌)の承継と実家不動産の行き先を一体で考えたい、というご相談が少なくありません。位牌や仏壇そのものは祭祀財産であり信託の対象にはなじみませんが、「実家は位牌を継ぐ者に承継させたい」「その次の代まで決めておきたい」という希望であれば、受益者連続型の家族信託が選択肢になることがあります。
ただし、特定の家族に承継を寄せる設計は、他の相続人の遺留分に配慮する必要があります。争いが見込まれる場合は弁護士とも連携して進める領域です。
県外・海外在住のお子様が受託者になるケース
沖縄では、お子様が県外や海外にお住まいのご家庭が多くあります。受託者が遠方に住んでいても家族信託を組むことは可能ですが、不動産の管理を実際に誰が担うのか、金融機関の手続きにどう対応するのかなど、距離を前提にした設計が必要です。このあたりは契約前の設計段階で詰めておくべきポイントです。
よくある質問
家族信託は本当に必要ですか?
すべてのご家庭に必要な制度ではありません。財産が預貯金のみで少額の場合、承継先を決めたいだけの場合、すでに判断能力が低下している場合などは、家族信託以外の方法が適していることが多いです。
必要性が高いのは、不動産をお持ちで、認知症リスクが現実味を帯びており、生前にその財産を売却・活用する可能性があるご家庭です。ご自身がどちらに当てはまるか、本記事の判定フローを目安にご確認ください。
家族信託をしないまま親が認知症になったら、どうなりますか?
ご本人の意思確認ができなくなると、預金の解約や不動産の売却といった手続きが進められなくなります。いわゆる「資産凍結」と呼ばれる状態です。
ただし、打つ手がなくなるわけではありません。その場合は成年後見制度を利用して、後見人が本人のために財産を管理することになります。家族信託は「唯一の手段」ではなく、「事前に備えることで選択の自由度を残す手段」と理解いただくのが正確です。
家族信託は自分で(専門家に頼まず)できますか?
法律上、信託契約そのものはご自身で結ぶことも可能です。ただし、信託口口座の開設要件、信託登記、税務との整合など、専門的な検討を要する論点が多く、自作の契約書では金融機関に口座開設を断られる例もあります。
長期間の運用を前提とする契約ですので、少なくとも契約書の内容チェックは専門家に依頼されることをお勧めします。
認知症と診断されたら、もう家族信託はできませんか?
診断名だけで決まるわけではありません。基準となるのは、契約時点で契約内容を理解できる判断能力が残っているかどうかです。初期の段階で、公証人による意思確認などを経て信託を組成できたケースもあります。
ただし、進行してからでは選択肢が確実に狭まります。「診断されたから諦める」でも「まだ大丈夫と先送りする」でもなく、早めに現状を専門家に確認していただくことが大切です。
まとめ
家族信託が必要ないケースについて解説してまいりました。要点を整理いたします。
- 家族信託はすべての家庭に必要な制度ではない。預貯金のみで少額・遺言で足りる・すでに判断能力が低下・贈与済みなどの場合、無理に組む必要はない
- 必要性が高いのは「不動産×認知症リスク×生前の活用予定」が重なる家庭。軍用地や収益物件をお持ちの場合は特に検討価値が高い
- 「危険・後悔」の正体は制度ではなく、設計と運用の失敗。受託者の暴走を防ぐ設計・税務の事前確認・経験のある専門家選び・金融機関との事前調整で多くは避けられる
- 遺言・成年後見・家族信託は役割分担の関係。目的に合わせた使い分け・組み合わせで考える
- 沖縄では軍用地・トートーメー・県外在住の家族など、地域特有の事情を織り込んだ設計が重要
この記事を読んで「うちには家族信託は必要なさそうだ」と感じられたなら、それはそれで大切な結論です。当事務所では、必要のない方に契約をお勧めすることはいたしません。
一方で、「判定フローで必要側に当てはまった」「自分の家がどちらか判断がつかない」という方は、一度状況を整理してみる価値があります。レスター司法書士法人では、窓口を一つにして、遺言・成年後見・家族信託の比較検討からワンストップで対応しております。初回のご相談は無料で承っておりますので、ご不安な点やご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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