皆様、こんにちは。レスター司法書士法人の日高憲一です。
「縁を切った家族には、絶対に財産を渡したくない。」そう思っている方は、少なくありません。
家族の間には、外からは見えない深い事情があるものです。長年の確執、裏切り、音信不通……そうした背景がある中で、「なぜあの人に財産が渡るのか」と疑問に思うのは、ごく自然な感情だと思います。
ただ、正直にお伝えしなければなりません。
今の日本の法律のもとでは、特定の相続人に財産を「完全にゼロ」で渡さないことは、相当難しいのが現実です。遺留分(いりゅうぶん)という制度が大きな壁として立ちはだかっています。
しかしご安心ください。「完全にゼロは難しい」とはいえ、法律の枠の中で対策を組み合わせることで、渡したくない相手への相続財産を限りなく小さくすることは可能です。
本日は、
- なぜ特定の相続人に財産を渡さないことが難しいのか
- それでもできる具体的な対策
- 知らずにやってしまう「後悔ポイント」
の3点に絞って解説いたします。沖縄から北海道まで約20年・2,000件超の相続相談を手がけてきた実務経験をもとにお話ししますので、ぜひ最後までお読みください。
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▶ あわせて確認:相続登記の費用はいくら?内訳と司法書士報酬の相場/沖縄で相続の相談はどこにする?相談先の使い分けと流れ
まず知っておくべき「遺留分」という壁
対策を理解するには、まず「遺留分」という制度を知っておく必要があります。これが、財産を渡さないことを難しくしている根本的な仕組みです。
遺留分とは、一定の相続人に法律で保証された「最低限の遺産をもらう権利」のことです。たとえ遺言書で「〇〇には財産を渡さない」と明記したとしても、遺留分がある相続人は、その分を請求することができます。
遺留分が認められる相続人は以下のとおりです。
- 配偶者(夫または妻)
- 子供
- 親(子供がいない場合)
兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺留分の計算方法
具体例で確認しましょう。
親が亡くなり、相続人が長男と次男の2人だとします。財産は1,000万円で、遺言書には「全財産を長男に相続させる」と書かれていました。
本来であれば、法律上は長男・次男それぞれ1/2ずつ(500万円ずつ)の権利があります。遺留分は「本来もらえる分の半分」ですから、次男の遺留分は1/4(250万円)となります。
つまり、遺言書で全額を長男に渡すと書いても、次男から250万円の請求が来る可能性があるということです。
兄弟姉妹が相続人のケースは比較的シンプル
ただし、相続させたくない相手が「兄弟姉妹」である場合は、話が違います。
兄弟姉妹が相続人になるのは、亡くなった方に子供も親もいない特殊なケースに限られます。そしてその場合、兄弟姉妹には遺留分がありません。遺言書で第三者や特定の人に全財産を渡すと書いておけば、それだけで兄弟姉妹への相続を防ぐことができます。
相続させたくない相手が兄弟姉妹なら、比較的シンプルに解決できます。一方、配偶者や子供・親が相手の場合は、遺留分という壁を考えた対策が必要になります。
遺留分がある相続人への財産を減らす4つの対策
遺留分があっても、対策を講じることで渡す財産を限りなく小さくすることは可能です。主な方法は以下の4つです。
- 生前贈与で財産を減らしておく
- 遺言書で財産の行き先を明確に指定する
- 第三者への遺贈・生前贈与を活用する
- 相続人廃除を申し立てる
それぞれ解説します。
1. 生前贈与で財産を減らしておく
元気なうちに、渡したい相手へ財産を贈与しておく方法です。亡くなった時点で財産がなければ、遺留分の対象になる財産も少なくなります。
ただし、重要な注意点があります。亡くなる前の10年以内に行われた生前贈与は、遺留分侵害の計算対象に含まれます。つまり、10年以内の贈与は「取り戻せる」可能性があるということです。
この対策は、早い段階から計画的に行うことが非常に大切です。相続対策は早く動くほど有効です。

2. 遺言書で財産の行き先を明確に指定する
渡したくない相手以外の人に、全財産を相続させる旨を遺言書に明記することが、意思を伝える最も効果的な方法です。
よくあるケースとして、奥様が築いた財産について、「万が一の時に夫には渡したくない、息子たちに全財産を渡したい」というご相談があります。この場合、遺言書に「全財産を息子たちに相続させる」と記載することで、夫への相続を回避しようとするわけです。
ただし、配偶者には遺留分がありますので、夫から遺留分の請求が来る可能性は残ります。遺言書単体での解決には限界があることを知っておいてください。

3. 第三者への遺贈・生前贈与を活用する
お世話になった方、孫、または社会貢献活動をしている団体などへの遺贈(遺言による贈与)や生前贈与も有効な手段です。
自分の財産を、渡したくない相手以外の第三者に渡すことで、遺留分の計算ベースとなる財産を減らすことができます。よくある例としては、「息子よりもよく面倒を見てくれた孫に財産を渡したい」というケースです。
こちらも遺留分侵害請求の対象にはなりますが、財産全体の分散という意味で有効な対策のひとつです。
4. 相続人廃除(はいじょ)を申し立てる
相続人廃除とは、家庭裁判所に申し立てて、相続人としての権利を剥奪してもらう手続きです。認められれば遺留分も消滅します。
ただし、要件が非常に厳格です。単に「仲が悪い」「縁を切った」という理由では認められず、虐待や重大な侮辱など、よほど特別な事情がなければハードルを越えることは難しいのが現実です。
知らずにやってしまう「後悔ポイント」
ここが非常に大切なところです。対策を講じたつもりが、かえって残された家族のトラブルを招いてしまうケースを、実務の中で多く見てきました。
遺言書だけ書いて安心してしまうのは危険
「息子たちに全財産を渡す」という遺言書を書いた。これで大丈夫、と安心してしまう方が非常に多いです。
しかし、配偶者には遺留分があります。遺言書通りに息子たちへ財産が渡った後、夫から遺留分侵害請求が来れば、息子たちが現金で遺留分相当額を支払わなければならなくなります。
特に問題になるのが、相続財産が不動産ばかりのケースです。息子たちが受け取ったのは不動産だけで現金がない、しかし夫への遺留分は現金で払わなければならない……という深刻なトラブルに発展した事例を実際に経験しています。
遺言書を書くことは大切です。しかしそれだけで終わらず、遺留分を請求された時の備えも同時に考えておくことが不可欠です。
遺留分請求への備えとして考えられる対応
遺留分請求があった場合に備えて、あらかじめ「渡してもダメージが少ない財産」を用意しておくという考え方があります。
実際にあった事例として、隣地の崖際にある使い勝手の悪い土地や、海外(アメリカ)の株式を遺留分相当額として渡すというケースがありました。請求する側が手続きの煩雑さに断念することを期待したものですが、必ずしもそうなるとは限りませんので、あくまで参考程度にご理解ください。
遺言書に「付言事項」を添えることも有効
付言事項(ふげんじこう)とは、遺言書の末尾に添える、最後のメッセージのことです。法的な拘束力はありませんが、「なぜこのような遺言にしたのか」「残された家族へ何を伝えたいのか」を丁寧に書くことで、相手の感情に訴えかけることができます。
「なぜ夫に財産を渡さないのか」という理由や、「息子たちに家を守り続けてほしい」というメッセージを残しておくことで、相手方が遺留分請求を思いとどまるケースもあります。
人は感情で動きます。論理だけでなく、心に訴える言葉を残しておくことも、大切な対策のひとつです。
複数の対策を組み合わせることが最重要
1つの方法だけに頼ることには限界があります。
- 生前贈与:10年以内は遺留分侵害の対象になる
- 遺言書:遺留分そのものをなくすことはできない
- 相続人廃除:認められるためのハードルが非常に高い
これらを組み合わせることで、初めて遺留分を「限りなく小さくする」ことが可能になります。生前贈与もしながら、遺言書も書きながら、孫や信頼できる第三者への遺贈も検討する——そうした複合的なアプローチが重要です。
また、自分で気づいた財産は自分で使い切ってしまうという選択肢も、一つの考え方としてあります。亡くなった時点で財産がなければ、遺留分の問題は発生しないからです。
- 遺留分対策は「1つの方法」ではなく「複数の組み合わせ」で考える
- 生前贈与は早期に計画的に始めることが重要
- 遺言書を書くだけでなく、遺留分請求への備えも同時に準備する
- 付言事項で気持ちを伝えることで、トラブルを未然に防げる可能性がある
- 税金など他の要素も考慮し、全体のバランスで判断する
遺留分は「誰に・どれだけ」あるのか【割合早見表】
ここからは、遺留分の基礎知識と対策の実務をさらに掘り下げます。まず、遺留分が「誰に・どれだけ」認められるのかを正確に押さえましょう。遺留分の合計(総体的遺留分)は原則として遺産の2分の1、相続人が親などの直系尊属のみの場合は3分の1です。これを法定相続分に応じて分け合います。
| 相続人の組み合わせ | 遺留分の合計 | 各人の遺留分 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 1/2 | 配偶者 1/2 |
| 配偶者と子1人 | 1/2 | 配偶者 1/4・子 1/4 |
| 配偶者と子2人 | 1/2 | 配偶者 1/4・子 各1/8 |
| 子1人のみ | 1/2 | 子 1/2 |
| 配偶者と父母 | 1/2 | 配偶者 1/3・父母 各1/12 |
| 父母のみ | 1/3 | 父母 各1/6 |
| 兄弟姉妹のみ | なし | 遺留分なし |
繰り返しになりますが、兄弟姉妹には遺留分が一切ありません(甥・姪にもありません)。相続人が「配偶者と兄弟姉妹」という組み合わせなら、遺言書を作るだけで兄弟姉妹への相続を完全に防げます。お子様のいないご夫婦は、まさにこのケースに当てはまります。
▶ あわせて確認:子どもがいない夫婦は遺言書を作るべき?
2019年の法改正で遺留分は「お金の請求」に変わりました
令和元年(2019年)7月1日に施行された民法改正で、従来の「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」に変わりました。改正前は不動産などの現物そのものが対象で、渡した相手との共有状態が生じる仕組みでしたが、改正後は金銭の支払いを求める権利に一本化されています。
この変更の実務的な意味は2つあります。渡したくない相手と不動産を共有させられる事態は避けられるようになった一方で、請求を受けた側は現金で支払う必要があるということです。財産が不動産中心の方ほど、遺留分相当額の現金をどう準備するかまで含めた設計が欠かせません。
さらに検討したい3つの対策──事前放棄・生命保険・養子縁組
先にご紹介した4つの対策に加えて、ご事情によっては次の3つも有力な選択肢になります。
5. 遺留分の事前放棄──家庭裁判所の許可があれば確実
遺留分は、相続が始まる前でも、相続人本人が家庭裁判所の許可を得て放棄することができます。許可が下りれば、その相続人から遺留分を請求される心配はなくなります。
ただし、家庭裁判所は「本人の自由な意思によるものか」「放棄に合理的な理由があるか」「放棄の見返り(十分な生前贈与など)があるか」を審査します。本人の協力が大前提となるため、関係が悪化している相手に使える場面は限られます。なお、「遺留分を請求しません」という念書を書かせても、家庭裁判所の許可のない生前の放棄は無効です。この点は誤解が非常に多いのでご注意ください。
6. 生命保険の活用と限界
現金や預金を生命保険(死亡保険金)に変えておく方法です。死亡保険金は受取人固有の財産とされ、原則として遺留分を計算するための財産に含まれません。遺産総額を圧縮しながら渡したい相手に確実にお金を届けられるうえ、受け取った側が遺留分を請求された場合の支払い原資にもなる、実務で使いやすい対策です。
ただし限界もあります。保険金の額が遺産全体に比べて著しく大きいなど、他の相続人との不公平が極端な場合には、例外的に保険金を遺留分の計算に含めるとした裁判例があります。「全財産を保険に変えれば遺留分ゼロ」とはならない点は知っておいてください。
7. 養子縁組で相続人の数を増やす
お孫様やお子様の配偶者と養子縁組をすると法定相続人が増えるため、1人あたりの遺留分の割合が下がります。たとえば相続人が子2人なら各人の遺留分は4分の1ですが、養子を1人迎えて子3人になれば各6分の1に下がります。
一方で、遺留分を減らすことだけを目的とした縁組は、後から縁組の有効性を争われるリスクがあるほか、家族関係の新たな火種にもなりかねません。目的とご家族の納得を丁寧に整えてから進めるべき対策です。
なお、どの対策を選ぶ場合も土台になるのは遺言書です。方式の不備で無効にならないよう、公正証書遺言での作成をお勧めします。作成の手順や費用の相場は、別の記事で詳しく解説しています。
▶ あわせて確認:遺言書の作成費用はいくら?自筆証書と公正証書の手順・相場
逆の立場になったら──遺留分を請求された側の対応
ここまでは「渡したくない」側の対策をお話ししてきましたが、当事務所には「遺言で財産をもらったら、他の相続人から遺留分を請求された」というご相談も寄せられます。特に沖縄では、トートーメー(位牌)の継承者に財産を集中させる考え方が今も残っているため、遺言の内容をきっかけに遺留分の問題が表面化しやすい土地柄です。請求された側が確認すべきポイントは3つです。
(1)時効が過ぎていないかを確認する
遺留分侵害額請求には期限があります。請求する側が相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年、知らなかった場合でも相続開始から10年で権利は消滅します。まず、請求がこの期間内に行われたものかを確認しましょう。
(2)請求額が適正かを検討する
請求額は、あくまで相手方の主張にすぎません。不動産の評価額の見方ひとつで遺留分の金額は大きく変わりますし、相手が過去に受けた生前贈与(特別受益)があれば、その分を反映して計算し直す余地があります。言い値のまま支払う前に、計算の根拠を精査することが大切です。
(3)すぐに払えない場合は裁判所に支払期限の猶予を求められる
改正民法には、支払う側の保護として、裁判所に支払期限の猶予(期限の許与)を求める制度があります。受け取った財産が不動産ばかりで手元に現金がない場合でも、対応の道はありますので、慌てて不利な合意をしないことが重要です。
遺留分対策のよくあるご質問
Q. 廃除や相続欠格が認められれば、完全に渡さずに済みますか?
その相続人本人は、相続権も遺留分も失います。相続欠格とは、遺言書の偽造・破棄や被相続人に対する重大な犯罪行為など、法律上当然に相続資格を失う制度で、廃除と異なり手続きは不要ですが、該当する場面はきわめて限定的です。また、廃除・欠格のいずれの場合も、その人に子がいれば代襲相続によって子が遺留分を引き継ぎます。「その一族には一切渡さない」ことまでは実現できない点にご注意ください。
Q. 遺言書がない場合も、遺留分の問題は起きますか?
遺言書がなければ、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で分け方を決めることになり、遺留分侵害の問題は基本的に生じません。逆に言えば、遺言書がない状態では「渡したくない相手」も協議に参加する相続人の一人ですから、対策の出発点として遺言書は必須です。協議がまとまった場合の書面の作り方は、別の記事で雛形付きで解説しています。
▶ あわせて確認:遺産分割協議書の書き方と雛形【コピペ可】
Q. 対策はいつから始めるべきですか?
早ければ早いほど有効です。生前贈与の「10年ルール」に代表されるように、遺留分対策は時間を味方につける仕組みが多いためです。また、判断能力が低下してからでは、遺言書の作成や養子縁組といった対策そのものができなくなるおそれがあります。お元気なうちのご相談をお勧めします。
まとめ
本日の内容を整理します。
- 「完全にゼロ」は相当難しい:遺留分という制度があるため、配偶者・子・親が相続人の場合、財産を完全に渡さないことは現実的に困難です
- 対策を組み合わせれば「限りなく小さく」できる:生前贈与・遺言書・第三者への遺贈・相続人廃除の4つの対策を複合的に活用することが有効です
- 兄弟姉妹が相手なら比較的シンプル:兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言書での対応で解決できます
- 遺言書だけで安心しないこと:遺留分請求への備えや付言事項の活用まで含めた総合的な対策が必要です
- 専門家に相談してから動くことが後悔を防ぐ:自分だけで判断して動いてしまうと、税負担の増加や新たなトラブルを招くことがあります。事前に専門家の意見を聞いた上で慎重に進めることをお勧めいたします
「うちはこういうケースだけど、どうなるんだろう」とお悩みの方は、ぜひお気軽にレスター司法書士法人にご相談ください。それぞれのご事情に合わせた対策を、一緒に考えてまいります。
本記事の内容は、YouTube動画『「遺留分 対策 7選」嫌いなあの人に相続でお金を渡さない7つの対策』でも解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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